記者コラム「見た 聞いた 思った」

2006年10月27日

採点の模範解答ない:藤中栄二

 模範解答が欲しいのは、自分だけだったのか。そう思った瞬間、笑ってしまった。きちんとした答えが必要なんて、誰も決めてはいない。最初から「ない」と思えば、深く考えることではなかったのかもしれない。

 9月27日、東京・後楽園ホールで世界ボクシング協会(WBA)の東京総会の一環として開催された審判セミナーを取材した。WBA世界ライトフライ級王者の亀田興毅が8月の初世界戦で微妙な判定勝利をしたことを契機に現在の採点法が注目を浴びた。クローズアップされた採点基準。そんな世界戦を見極めるプロの目を体感できる絶好のチャンスだった。

 セミナーは実戦形式で行われていた。WBA審判委員会の幹部が音頭を取り、リング上で2人の選手がさまざまなケースの試合展開をデモンストレーションした。そのリングサイドで世界各国のジャッジが独自の採点を記入していた。当然、採点には「ばらつき」が出る。司会に指名された各ジャッジは自らの採点理由を堂々と発表した。数人のジャッジが発言した後、固唾(かたず)をのんだ。ついにWBAの採点基準=解答が示されるに違いない。しかし、大きく予想に反する展開が待っていた。

 WBA審判委員会は発言した各ジャッジの採点理由をすべて支持した。赤コーナーを10-9にしたジャッジに「確かにその通りだ」。青コーナーを10-9にしたジャッジには「なかなかいいところをついている」。あるいは10-10にしたとしても「そんな考え方もあるね」とすべて尊重し、そのままセミナーは終了した。さまざまなケースを実戦で見せながらもWBA側
の基準=模範解答は1度もなかった。

 なぜケース別の基準を示さないのか。ルイス・パボン審判委員長に取材した。

 パボン氏「世界の地域によって採点にばらつきがある。このセミナーをやることで採点基準を統一する1ページにしていく」。

 だ・か・ら、ケース別の基準はないの?

 同氏「いろいろな採点を意見を出してボクシングの見方が違うと認識することが第1歩になる」。

 世界戦ルールで明記した以上の基準は示さず、細部はジャッジ全員で統一するように努力すればいい、ということだった。

 セミナーで世界各国のジャッジから細かい採点基準を求めるような声は出なかった。「さまざまなケースがある」と認め合う雰囲気を感じた。世界戦を裁くプロが気にしていないということを何度も質問したところで明確な返答はない。だんだん取材している自分が「おかしい」と感じてきた。模範解答を求めていた自分に笑いがこみ上げた。

 ある読者から匿名で「8月2日は採点方法がおかしいのではなく、亀田戦の判定に疑惑があるのだ。論点のすり替えだ」との手紙をいただいた。あの8月2日から2カ月以上が経過したが、疑惑の判定とした一部のメディアも具体的な疑惑を明示も究明もしない。そして、採点方法には具体的な模範解答がない。微妙だったかもしれないが「さまざまなケースがある」。それでいいのではないか。

October 27, 2006 11:05 AM