記者コラム「見た 聞いた 思った」

2006年10月26日

理解しがたいJRA:岡山俊明

 ディープインパクトが調整不足を理由に天皇賞(秋)を回避した。当初から出走の可能性が限りなくゼロに近かったにもかかわらず、発表がレース1週前まで延びたのは残念でならない(前回の当欄で指摘したように、東京競馬場で着地検査を受けた最大の目的は、厩舎スタッフの手で管理できるメリットがあるから)。

 回避発表の遅延で、迷惑を被った馬もいる。菊花賞7着のマルカシェンクは、距離適性のある天皇賞に出走を希望していた。補欠1番手だから、賞金上位馬から1頭回避馬が出れば出走できた。が、ディープインパクトの出否が未定だったため、やむなく菊花賞に向かい、敗れた。マルカシェンクの瀬戸口調教師は池江泰郎調教師に電話で真意を確かめようと試みたが、はっきりした回答は得られなかったと聞く。報道陣も振り回された。各所に迷惑が掛かっている。

 今回の混乱の原因は、競馬場入厩にはレース出走意志を有していなければならないという、JRAの内規にもある。出走意志とは極めてあいまいだから抜け道として利用された。このままでは同じことが繰り返される。天皇賞騒動は一段落したが、まだ重大な問題が残っている。フランスでディープインパクトに薬物を投与した人物も、投与された経緯も、調教師が認識していたのか否かも明らかになっていない。調教師の過失を断定する仏の競馬統括機関フランスギャロの見解が一方的に流されるだけで、日本側から真相に迫る説明は何もない。

 フランスに同行した日本人獣医師は、守秘義務を理由に黙した。調教助手も厩務員も話せない。責任者である調教師が口を開かない限り、真相は薮の中。池江師は薬物事件に関するコメントを、処分が出る来月末まで保留する意向だが、潔白を主張するのであれば待つ必要はない。公の場で事の経緯を説明してほしい。

 JRAの対応も理解しがたい。あれだけ救世主として持ち上げながら、手のひらを返して容疑者扱い。高橋政行理事長は事件が明らかになったその日に「栄誉ある凱旋門賞に汚点を残す結果」と辛らつに非難した。独自の聞き取り調査によって陣営の非を決定づけているのであれば、その詳細を明らかにしなければファンは納得できない。自国の英雄を擁護する余地は全くなかったのだろうか。

 気管拡張効果のあるイプラトロピウムは日本では禁止薬物に指定されていないから、仮に常習していても宝塚記念までの戦績に傷はつかない。しかし、今回の事件でダーティーなイメージを抱いた人は決して少なくないだろう。過去に五輪で記録やメダルをはく奪された選手たちと同じように考えたとしても不思議ではない。

 わだかまりを残したまま、ジャパンCや有馬記念に出てほしくない。ディープインパクトや応援してくれたファンのために、どうすればいいのか。その答えを導き出すことが、関係者の使命ではないか。

October 26, 2006 11:18 AM