記者コラム「見た 聞いた 思った」

2006年10月18日

泥まみれ素足の代表:寺沢卓

061018-1.jpgスパイクを脱いで合宿するラグビーリーグの日本代表(撮影・川口晴也)

 この写真は何でしょう? 決して新スポーツ「素足ラグビー誕生!」ではない。日本代表の強化合宿での1枚だ。ただ、一般的な15人制ではなく、ラグビーリーグと呼ばれる13人制。W杯予選直前合宿が7~9日に都内の河川敷で行われた。取材した日は前日に豪雨が降り、グラウンドはぬかるんでいた。最初はスパイクを履いていた選手だが、自転車で通りかかった都の監視員にこう言われたという。

 「来週、ここで幼稚園の運動会があるのよ。スパイクだと荒れちゃうでしょ。脱いでくれないかな」。

 で、靴下になって練習再開。監視員のおじさんは、彼らが日本代表であることなど知るよしもない。

 ラグビーリーグは19世紀末に北部イングランドで生まれた。大半の選手は別に職業を持ち、日曜以外は働いていた。平日開催の試合に出場するために仕事を休む保証として、クラブへ金銭を要求してもめた。クラブや協会との交渉に決裂した北部の選手たちが、独自リーグを立ち上げた。試合でけがをしないように、接触プレーとなるラック、モール、ラインアウトを廃止。また、相手にタックルを6回受けた時点で攻守交代となる新ルールもつくった。従来のラグビーを「ユニオン」と呼んで「リーグ」との差別化を図った。

 オーストラリアでは「ユニオン」よりも人気が高いという。日本では93年に協会が発足したばかり。定期的なトーナメントが行われている。同協会最高責任者で日本代表の小西周さん(36)は「競技者は約200人。代表選出の通知しても音信不通の選手もいる。大変です」と話す。

 13回目のW杯は08年11月、10カ国が参加して実施される。6連覇中で開催国のオーストラリア、ニュージーランド、英国、フランス、パプアニューギニアは出場権を得ている。欧州から2カ国、環太平洋から2カ国、残り1枠は環太平洋3位が、日本と米国の勝者と対戦して決まる。2度目挑戦で初出場を目指す日本代表は23日に渡米し、25日に米国と予選を戦う。

 サッカーや野球などと違い、ラグビーリーグのような地味な競技の日本代表は、選手層の薄さ、資金調達など苦労は絶えない。それでも小西さんは「私も元ユニオンだが攻守の切り替えの早さは俊敏な日本人向きで楽しい。1月の練習試合で米国には10-40で敗れたが、絶対勝って歴史を変える」と情熱を傾ける。

 人気スポーツも最初はそんなもの。選手らの熱い思いとプレーが見る者の心を打ち、競技の輪が広がっていく。今は認知度が低くとも、幼稚園の運動会に負け、素足で練習したことが笑い話で語られる日が来てほしい。

October 18, 2006 08:58 AM