2006年10月16日
天皇賞に出ない理由:岡山俊明
年内引退が発表されたディープインパクトが、29日の天皇賞(秋)に出走するのではないかと騒がれている。本紙は一貫して静観してきた。理由は取材の結果、出走しないと判断したから。その理由を述べたい。
ちょうど1週間前の8日午後5時、池江泰郎調教師からJRA広報を通じて「ディープインパクトの東京競馬場入厩」が発表された。千葉県の競馬学校で輸入検疫を終えた後に義務付けられている3週間の着地検査が、当初予定していた滋賀県の民間牧場グリーンウッド・トレーニングではなく、東京競馬場に変更された。調教師のコメントは以下の通り。「次のステップを決める際に、より選択肢を広げておきたいということと、自厩舎のスタッフが自らディープインパクトの調整に携われることから、東京競馬場で着地検査を受けることを決めました」。
「選択肢を広げる」とは何ぞや? 同僚や上司とすったもんだの議論の末、天皇賞を選択肢に入れる意味と判断できた。民間牧場で検査を受けると出走はできないが、JRAの施設にいれば可能。このままの解釈なら、本紙も天皇賞出走の可能性に言及していただろう。
ところがその晩、都内で開かれたパーティーで金子真人オーナーを直撃したところ、陣営の真意が明らかになった。主眼は池江師のコメントの前半部分ではなく、2番目の「自厩舎のスタッフが携われる」ことにあった。調教師会と厩務員組合の申し合わせで、調教助手や厩務員は民間牧場の調教にタッチできない。だから最初のプランでは池江敏行助手や市川明彦厩務員の手元から離れなければならない。2歳秋に栗東トレセンに入厩してから放牧にも行かず、来る日も来る日も市川厩務員が世話をしてきた。慣れないスタッフに委ねるリスクを避ける非常手段として、東京入厩のウルトラCを使ったわけだ。
「ジャパンCに使いたい」と話した金子オーナーは、天皇賞に出走できることをご存じなかった。それを伝えると、少し考えて、こう返答した。「いや、それはない。馬がかわいそう」。最終的な決断は金子オーナー自ら行う。また池江師は半端な仕上げでは決して使わない職人。帰国して十分な追い切りもせず中3週でG1に出すとは、とてもとても考えられない。
それではなぜ、池江師が出走をほのめかすのか。それはJRAの内規に、レース出走意思が競馬場入厩の条件として挙げられているから。たとえ建前でも、出走に前向きな発言をせざるを得ないのだ。
今日15日は天皇賞の登録日。リストの中にディープインパクトの名前はあるだろう。そしてほどなく、シナリオ通りに出走回避が発表される。
出走の可能性が限りなくゼロに近いと分かっていて、ファンに期待を持たせる報道はできない。新聞は速報性ではインターネットにかなわない。だからこそ信用が大事。地に足をつけた取材を心掛け、事実に基づいた真実に近づきたい。
October 16, 2006 12:00 PM
