記者コラム「見た 聞いた 思った」

2006年10月07日

損か得か!!「●●似」:藤中栄二

 イタリアサッカー・セリエAのメッシーナMF小笠原満男が今月1日、リーグ戦で初めてフル出場を果たした。得点に絡んでいないが、早速、積極的なプレーを評価されたようだ。イタリア紙では6・5点、あるいは6・0点と高い採点となった。Jリーグ鹿島で3冠を達成した00年以降、常にイタリアの複数クラブから興味を示されてきた攻撃的MF。今は実力を試すことの喜びを感じているに違いない。

 イタリアで小笠原の存在が知られるようになったのは「師匠」のおかげにほかならない。00年から鹿島を率いた元ブラジル代表MFトニーニョ・セレーゾ監督は現役時代、サンプドリアなどでプレー。同クラブのホームタウンとなるジェノバに別荘を持っており、静養のためにイタリアを往復することが多かった。当時、同監督は「向こうにいると、サッカー関係者から『日本人で良い選手がいるのか』と聞かれるので、小笠原を紹介しておいた」と公言していた。

 サッカー担当だった03年9月、サンプドリアに移籍したFW柳沢敦の取材をした時のことだった。同クラブのGMだったマロッタ氏も「セレーゾ監督から『中田英寿に似た良い選手がいる』と聞いた。実際に見てみたい」と強い興味を持っていた。イタリア紙の移籍市場の欄に小笠原の名前があった時も、寸評部分は「中田に似たタイプ」となっていた。当時からセレーゾ発言が独り歩きし、イタリアのサッカー関係者は小笠原のイメージを膨らませていたに違いない。

 その場に不在の人間を紹介する時、有名人に例えるのが手っ取り早い。「○○似の」と言われれば、顔でも雰囲気でも何となく想像できる。それはサッカーのプレースタイルもまったく同じことが言える。イタリアで以前から小笠原の存在を知っていた人間は間違いなく中田英が動くイメージを抱いているに違いない。イタリアでは中田英のプレーをダブらせて見ている人も少なくないだろう。

 確かに中田英と小笠原には因縁めいたものがある。02年W杯日韓大会では、日本代表トルシエ監督がトップ下に入る中田英のバックアップ選手として小笠原を据えていた。昨季限りで中田英は引退し、今季から小笠原が欧州クラブに飛び出したのも、単なる偶然ではないだろう。ただしプレーが似ていると言われただけで、小笠原は中田英ではない。プレーだけならまだいい。常に絶頂期の中田英と同じ活躍まで期待されたとしたら、たまったものではない。

 「○○に似ている」という言葉。状況によっては嫌な気分になる。例えば、似ていると言われる人間のマネをしているというような受け取り方ができる。イメージだけが先走り、実際に会ってがっかりされてしまうのも悲しいものだ。当然、メッシーナ幹部は純粋に小笠原のプレーを評価していると思われる。だがイタリアで一番成功した日本人選手に似ているという先入観は残っているだろう。「中田英似」というセレーゾ発言が、今季の小笠原を苦しめるのではないかと心配でならない。

October 7, 2006 12:46 PM