記者コラム「見た 聞いた 思った」

2006年10月05日

ヤクルト地道な草の根活動:沢畠功二

 都心の一等地、広尾小のグラウンドは人工芝だった。広さはともかくチップがちりばめられ、プロ野球の球場とも遜色(そんしょく)はない。サッカーゴールはあったが、バックネットはない。9月28日午前、ヤクルトの古田敦也兼任監督以下ナイン6人が駆けつけた。質問コーナーには無数の手が挙がった。

 児童A プロ野球選手にはどうしたらなれますか

 古田監督 親にメシを食えと言われたので、毎日牛乳1リットルとパン1斤を食べてました。

 児童B もしプロ野球選手になってなかったら、何になっていましたか

 坂元 政治家です(ナインからは冷たい視線)。

 志田 実家が魚を捕る仕事をしているので、それを継いだと思います。

 選手の声を聞く児童の目は真剣だ。ふだん間近で見ることのないプロ野球選手。選手も試合の合間を縫って来たかいがあっただろう。野球に興味のない子も、少しは関心は持つようになったのではないか。そこに、この学校訪問の意味がある。しかし校庭が狭く、バットを使った野球はできないのが現状だ。腕をバット代わりにしたハンドベースやキックベースが限界だという。小6の33人中、地区の少年団に所属しているのは野球4人、サッカー8人。環境面でやむを得ない。

 野球でも地域密着という言葉が使われるようになって久しい。北海道の日本ハム、仙台の楽天、福岡のソフトバンク、広島、横浜。ヤクルトも今年からチーム名に「東京」をつけ、より地元志向を色濃くしていこうとしている。神宮球場が新宿区、渋谷区、港区にまたがっているだけに、近隣との交流に積極的だ。
 しかし私を含めて地方出身者が多い東京で、地域密着を根付かせるのは並大抵のことではない。何といっても巨人の存在が大きく、JリーグではJ1東京、J2東京Vがあり、スポーツ以外の娯楽がとにかく多い。日本ハムが札幌に移転する際、ヤクルト本社の関係者は「先を越されました。プロ野球を受け入れそうなのは、あとは仙台あたりだね」と嘆いていたのを思い出す。2チームがフランチャイズとしている特殊性もあり、東京には地域密着が定着しにくいことを分かっていたからだ。球界再編騒動を経て、仙台には楽天が進出した。

 遅れること数年、ヤクルトは大都会で気の遠くなるような普及活動にいそしんでいる。球団関係者は「昨年までやっていなかったわけですから時間はかかるでしょう。草の根です。とにかくやっていかないと始まらない」と躍起だ。古田監督も「プロスポーツは地域に密着して、子供に夢を与え、目標になっていかなければいけないんです」と力説する。

 絵に描いたもちに終わって欲しくない。監督やフロントが入れ替わっても、続けていかなければ意味はない。帰り際、古田監督から児童全員に神宮球場の入場券が配られた。ドッと沸いた。女の子も喜んだ。だが、球場に来てもらうための、1歩をようやく踏み出したに過ぎない。

October 5, 2006 10:20 AM