記者コラム「見た 聞いた 思った」

2006年09月30日

国体で有終「シャー」:浜崎孝宏

 30日から兵庫国体が開催される。今夏の甲子園を沸かせた「ハンカチ王子」こと早実の優勝投手・斎藤佑樹(3年)が出場するなど硬式野球の部は話題満載となりそうだ。個人的に楽しみなのは、鹿児島工の代打の切り札、今吉晃一(3年)だ。168センチ、89キロのずんぐり、むっくりの体形は、鹿児島弁で俗に言われる「横ばいのこじっくい」がピタリとはまる。スタメンではないだろうが、大事な場面で必ず流れを変える頼もしい男だ。打席に入ると球場に響き渡る「シャー」の掛け声とともに相手を威かく。マウンド上の相手投手もさることながら、見ているファンもその気迫に圧倒されたはずだ。

 日刊スポーツでも甲子園では何度か今吉晃を取り上げたが、デスクから「必ず『シャー』を原稿に入れてくれ」という要望があったほどだ。私も新鮮だった。今吉晃の個人プロフィルを書いたが、実はこの青年、私と出身小学(瀬々串)、中学(喜入)が同じで、ソフトボール-軟式野球と所属した団体も同じだった。

 私と今吉晃の郷里は、鹿児島市から薩摩半島の南にある指宿方面へ約20キロ。石油備蓄基地の町、喜入(きいれ)町だ。04年11月の市町村合併で揖宿郡だった町が、同郡の中で1町だけ鹿児島市に合併された。特筆すべき観光名所はないものの、海手には錦江湾(鹿児島湾)、山手には烏帽子岳の見える風光明美な田舎町。よくぞ牧歌的な町から「ハンカチ王子」と対照的な気迫の男・今吉晃が誕生したものだな、とうれしかった。

 「シャー」の掛け声は実際には「ウッシャー」とほえているそうで、もちろん、相手投手へ「かかってこい」の思いがある。もう1つは、昨年、背骨を疲労骨折し、落ち込んだ後から、打席内で自分を鼓舞するために始めたそうだ。

 ナインが髪を伸ばしている中、今吉晃はいまだ五厘刈りで気合十分だ。先週末に行われた体育祭では、電子機械科のクラスメートからそのキャラクターを買われ、満場一致で応援団長に指名されたそうだ。先日、大手鉄鋼会社の内定をもらったが、高校で完全燃焼したせいか社会人ではバットを置くつもりだ。鉄鋼会社を選んだ理由の1つは「僕はパソコンの前でじっとしていると死にそうになるんで、汗をかいて働いた方がいいんです」。おしゃれやファッションなど気になる年齢だと思われるが、今どきには珍しい? 熱血漢。高校野球ファンには、それが新鮮で、人気を得たのかもしれない。

 熱闘甲子園から1カ月が過ぎ、再び国体開催地の兵庫県に取材のため足を踏み入れた。35度超だった猛暑と打って変わり、朝晩は肌寒くなった。駒大苫小牧の田中将大投手(3年)八重山商工の大嶺祐太投手(3年)の活躍も注目だが、試合の終盤で「一振り」にかける代打・今吉晃の「シャー」が大会をホットにしてくれるはずだ。鹿児島工は10月1日(高砂市野球場)に登場し、1回戦で日大山形と対戦する。

September 30, 2006 09:34 AM