2006年09月20日
改心もたらした台風:浜崎孝宏
遺書を残そうか。一瞬、そんなことを思った。仕事で石垣島に行った。台風13号が、島に上陸しそうだという情報は知っていたが「大したことはなかろう」とたかをくくっていた。宿泊したホテルは石垣空港より山手に車で約2分。コバルトブルーの海を一望できる、リゾート満点の宿だった。台風上陸の数時間前までは、時折、日が差すなど本当に台風が来るのか信じられないくらいの天候だった。
しかし、台風が島に近づくにつれ曇天の空に変わり、風が強さを増した。ホテルの部屋で眠りについた後、一晩中、ベッドは揺れ続けた。窓ガラスが弓なりになりながら「ミシッ、ミシッ」と雨、風に耐え続けた。外の明かりはまったく見えないほどの雨脚だった。電気は停電。水はストップ。瞬間最大風速60メートル超の嵐が過ぎるのを待つしかなかった。部屋が左右に揺れているのを十分に両足で感じ取った。
「ホテルが倒壊して、死ぬかもしれない」。石垣島で恐怖におののいた。そんなとき、ふと家族の面々が浮かんだ。遺書を書いておくべきか。変な思いが一瞬、頭をよぎった。書くなら何を書こうか。伝える内容を頭で整理した。まずは、妻へ。「感謝している。ありがとう。両親を大事にしてください。会社の人に手紙を出す際は、ありがとうございました、と伝えてください」。次に子供たちへ。「けんかをせず、兄妹、仲良くしなさい。ママの言うことをよく聞きなさい」。
思えば、子供たちには迷惑もかけた。スポーツ新聞の仕事は、土日、祝祭日にイベントが行われるケースが多い。子供の運動会や父親参観日は休日と重なるケースが多いため、イベントに出席できないことも多い。会社の同僚も皆同じだ。先日、長女が通う幼稚園の父親参観日があり、仕事で欠席した。長女のクラス約30人のうち欠席者は3人だったそうだ。幼稚園の先生が、父親との共同作業を授業中に課題として与えると先生の前に出て行った長女は、悲しいかな「パパ、おらんもん」と言ったそうだ。
高校サッカーの顔として知られる国見の小嶺忠敏総監督の言葉を思い出す。「子供は一生懸命やっている父親の背中を見とるんですよ。情熱を持って事に取り組んでおれば、子供はしっかり育つんですよ」。年間100試合以上の練習試合、遠征をこなし、情熱をサッカーに傾けながらもしっかりと子供を育てた指揮官の言葉が脳裏に浮かんだ。台風真っただ中の石垣島のホテルの一室。ろうそく1本の明かりの中で、嵐の音におびえながらも、自分の存在は何か、を考えるいい機会だった。子供の成長を見る機会が少なくとも、必死に働く後ろ姿を見せることが、父親の役目だと思った。
恐怖の一夜は、無事に過ぎたが、翌朝、道端で真っ二つに折れた電柱を見掛けた。まだ、遺書を書くほど、一生懸命、仕事はしていない。ばかなことを考えたものだと、おかしかった。おなかがすいた。生きている実感がわいた。
September 20, 2006 09:21 AM
