記者コラム「見た 聞いた 思った」

2006年09月06日

強い馬は確かにいた:岡山俊明

 先日の小倉競馬で日本最古のレコードが破られた。タケシバオーが保持していたダート1700メートル1分41秒9が、実に37年ぶりに0秒1更新された。このニュースは記録を破った馬以上に、昭和40年代の競馬を沸かせた怪物のすごさを浮き立たせた。

 毎年新しい血が注入されるサラブレッドの世界は、人間の何倍も個体の進化が速い。だから40年近く前の記録が残るなど、普通はあり得ない。ダート1700メートルの番組は今でもローカルを中心に多く組まれているし、オープンのレースもあるのに。

 タケシバオーがレコードを出した時は60キロを背負い、ジョッキーは直線で手綱を押さえたままだったという。競馬好きの叔父がほれ込み、大騒ぎしていた理由があらためて分かった。

 69年3月1日、東京競馬6Rサラ系5歳以上オープン、重馬場、6頭立て。1着タケシバオー1分41秒9、2着スイートフラッグ大差、3着タケブエ首、4着ステートターフ5馬身、5着ヤマトダケ1馬身1/2、6着オカユキ大差。2着は15馬身以上、最下位は40馬身ちぎられた。

 美浦トレセンで話を聞けた関係者は、当時の様子を鮮明に覚えていた。

 ◆タケシバオーの古山良司騎手(00年に調教師を引退) しまいは追う必要がなかった。早く馬を止めなければいけないからね。追えばもっと時計は出ていただろう。当時は米国並みの時計と騒がれた。レコードは破られたけれど、タケシバオーの偉大さに変わりはない。

 ◆3着タケブエの伊藤正徳騎手(現調教師) 自分の馬も前に行く意識があったが、途中からビュッと行かれて追いつかなかった。何じゃこりゃと思ったね。化け物だった。力が違いすぎた。くっついていったら、こっちが壊れちゃう。

 ◆5着ヤマトダケの平井雄二騎手(同) 自分のデビュー戦だった。古山先生はレコードを狙っていたよ。よほど具合が良かったのだろうね。こっちはハナに行くつもりで乗ったら、スタートから300メートルでかわされてそのままだよ。迫力が違った。

 ◆初戦から2回騎乗した畠山重則騎手(同) 牧場ではあまり期待されていなかったそうだよ。厩舎に入ってどんどん良くなった。ダートの調教で5ハロン58秒を切っていた。ずっと乗っていたかったなあ。

 ◆9回騎乗した中野渡清一騎手(同) 若い時はゲートは悪いし、女っ気はあるし、内にささるし、引っ掛かるし、乗り味も良くなかった。でもすごく丈夫だった。弥生賞は前でやり合って2着に負けて降ろされちゃったけど、どう乗っても勝てると思っていたな。

 1000メートルから3200メートルまであらゆる距離で勝ち、芝もダートも関係なく、不良馬場で65キロも克服した。こんなオールラウンダーは空前にして絶後。ディープインパクトとは異質の、とてつもなく強い馬が過去に確かにいた。その事実だけはずっと忘れないでいたい。

September 6, 2006 11:59 AM