2006年08月24日
渡瀬と球児つなぐ歌:村上久美子
夏の高校野球は早実の初優勝で幕を閉じ、球児は甲子園を去った。そして今週末、聖地に違う球児が戻ってくる。首痛などで抹消中だった阪神の藤川球児が1軍復帰。タイガースは長期ロードを終えると、25日から本拠地に巨人を迎える。
直球を待つ打者に快速球を投げ込み、三振に斬(き)る。彼こそ「金払う価値のあるプロ」だ。5月28日、西武インボイス。試合は阪神のサヨナラ負けだったが、球児は2イニングで6打者連続の空振り三振。もう、それだけで満足だった。
球児の復帰で阪神ファンは夢と誇りを取り戻す。甲子園には、おなじみの勝利の凱歌(がいか)「every little thing every precious thing」(リンドバーグ)が帰ってくる。
そう、球児の甲子園登板時に流れるあの歌。渡瀬マキのハイトーンボイスで耳に残る♪あなたがずっと追いかけた夢を一緒に見たい…奇跡のゴール信じて今大地を踏み出した♪ 球児は04年に中継ぎ転向し、一軍定着してから、ずっとこの曲を使い続けている。その縁で、曲を作詞した渡瀬に取材する機会があった。
渡瀬の第一声は「バラードですし、すごくテンポのいい曲というわけでもないのに、どうしてあの曲を使ってくれてるんですか」。楽曲は96年制作で、球児はまだ高校生だった。渡瀬に夫人との思い出の曲だから、との理由を伝えた。
「うれしい。本当にうれしい」。渡瀬は何度も繰り返した。渡瀬は三重出身で、父が40年来の阪神ファン。父に球児のすごさを聞かされ、興味を持った。
「中継ぎとか、抑えとか、いつ出るか分からないんでしょ。その中で、毎回毎回、ベストパフォーマンスをやれるなんて、ものすごい精神力ですよね」。女性ボーカルのバンドとして、90年代の音楽シーンを引っ張ったリンドバーグ。渡瀬も、数々のステージに立った。観客の拍手に身震いをした者だからこそ、球児の偉大さを思い知る。
そこで、渡瀬は球児との接点を見いだした。2人は、ともに1男1女を持つ親。渡瀬は、子供服のオリジナルブランド「Ontembaar」のインターネット販売を始めている。オリジナルサウンドにこだわり続けたアーティスト活動同様に、子供服1つを完成させるのも、生地選びから2カ月以上をかける。デザインはシンプルでも、丈夫さにこだわるという。球児との縁を感じ、渡瀬のひそかな夢が増えた。「藤川投手に私の子供服をプレゼントしたいな。子供に着せてもらえるかな」。
縁は縁を呼ぶ。いつか、どこかで実現するかもしれない。昨年9月29日、阪神がリーグ優勝を決めた夜、大阪・えびす橋に六甲おろしとともに繰り返し、繰り返し、響いたのは「Every Little Thin…」だった。
これを聞いた渡瀬は、半信半疑だったという。10年前の楽曲が、いまや阪神ファンには聖歌となっている。記者は5月28日の西武インボイスで、イニング交代時にシーツが投げ入れたボールを幸運にも手にした。毎夜、寝る前にボールを握る。すると、耳に♪あなたがずっと追いかけた夢を…♪と流れる。はい、すっかり愛唱歌になりました。渡瀬と球児がつながる日も遠くないかもしれない。
August 24, 2006 09:15 AM
