記者コラム「見た 聞いた 思った」

2006年07月22日

初出場にかける思い:浜崎孝宏

 高校時代にかなわなかった甲子園への夢が、実現しようとしている。高校野球熊本大会取材で審判員と話す機会があった。熊本審判協会の加藤博明さん(44)だ。今夏の甲子園には、九州から熊本と宮崎から1人ずつの審判員が出場する。加藤さんは審判生活13年目で、初の甲子園。「高校時代に甲子園を目指していたし、指名されたときはうれしかった。感謝です」と人懐っこい笑みがあふれた。

 高校時代は、大分の強豪、柳ケ浦で6番三塁手として活躍した。高3の夏は日田林工に敗れ、8強で終わった。あこがれの甲子園に行けなかった悔しさが心のどこかに眠っていたのだろう。そんな加藤さんに審判の誘いがあったのは94年のこと。勤務先の阿蘇広域消防本部の仲間から誘われた。「野球に携わりたい思いがあった」。加藤さんは、大学以来となるグラウンドに再び足を向けた。

 この時期は、全国どの球場でも気温は30度を超す猛暑。球児も大変だが、審判も肉体的にはハードだ。選手は攻守交代でベンチでひと息入れるが、審判は、基本的には試合開始から終了まで、プレーの一部始終に目を光らせなければならないからだ。審判員も攻守の合間に給水は可能だが、それでも、正午すぎの3時間を超えるロングゲームを担当すると1試合で体重は約2キロ落ちることもある。昨年、沢村賞投手のソフトバンク杉内に「9回を完投すれば約2キロ体重が落ちる」と聞いたことがあるが、並みの体力では務まらない。加藤さんも一日約6キロのランニングや筋力トレを1年中継続。そんな地道な努力が、甲子園切符をつかませたのかも知れない。

 九州から甲子園に行ける審判は、毎年1~2人。センバツと選手権の2大会を各県の審判協会で順番に振り分けるそうだが、夏の甲子園に熊本から審判を送り出すのは、8年ぶり。約100人以上いる熊本県審判協会から指名された加藤さんは、意気込みをこう話した。

 加藤さん 最初で最後の甲子園だと思う。多分、緊張すると思うけど、慣れた藤崎台と同じ気持ちで平常心でいきたい。最後まで両チームを平等にジャッジして、いい位置取りで判断したい。高校時代に行けなかった甲子園。最後まで駆け回って黒子に徹したい。

 甲子園を目指すのは、高校球児だけではない。毎年、感動的な試合を陰で演出してくれる審判員にとっても夏切符を勝ち取るのは厳しい。今や際どい判定ではリプレーがテレビで流されるだけに、審判に向けられる目もシビアだ。プロ野球ではビデオ判定導入を叫んでいたどこかの球団があったが、人間がやるから面白いのだ。間違いがあってはならないのはもちろんのこと、クロスプレーで一瞬の「間」があっての「アウト!」「セーフ!」。甲子園の晴れ舞台にかけてきた審判員の思いが「間」の後の動作ににじみ出る。8月6日の甲子園開幕までわずか。選手のプレーもさることながら、審判員の思いのこもった動きに注意してみれば、また違った高校野球の楽しみを味わえるのでは。

July 22, 2006 10:22 AM