2006年06月24日
待ち焦がれた「恋人」:松井清員
記者生活で初めて見た光景だった。ホームグラウンドで敵チームの打者に対し、ファンが総立ちになって大声援を送る。しかも自分の応援するチームが負けていて、8連敗を喫しようかという終盤だ。スタンドはその日一番の熱狂と興奮に包まれた。引退試合ではない。仮に引退試合でも、敵地でここまでのスタンディングオべーションがあるだろうか。
14日、東京ドームでの巨人-オリックス戦。清原が7回に代打で登場し、移籍後初めて古巣と対戦した場面だ。心から「お帰りなさい」の意味を込めた拍手。新天地で身を削りながら奮闘する姿に心打たれた拍手。それは今なお、巨人ファンが清原を愛していることを感じさせられたシーンでもあった。だがそこにはもう1つ、巨人ファンの悲痛な叫びが隠されているような気がしてならなかった。
巨人は今季も主力が相次いでリタイア。小粒になったチームは交流戦で大失速した。視聴率低迷が示すように、チームは生え抜きスター不在と勝てない、Wの迷路にはまってしまっている。誰を応援していいのか、何を信じて応援すればいいのか。巨人の「顔」が見えないのだ。連日高い入場料を支払い、熱心に応援してもなかなか報われない情熱…。ファンは巨人ファンであるべき心のよりどころを失いかけていたのではないだろうか。
そんな時、昨年までの9年間で数々のドラマと感動を与えてくれたあの男が打席に立った。何かをやってくれそうな予感。フラッシュバックする思い出。耳をつんざく「清原コール」には、久しく待ち焦がれていた恋人に出会ったような熱さでいっぱいだった。巨人の敗色が濃厚で、半ばやけっぱちな気分も後押ししたかも知れない。もはや敵も味方も関係ない。勝敗も度外視。心からの声援を思い出させてくれた背番号5へ向け、魂の叫びがドームに響き渡った。
OとNがしのぎを削っていたころ、巨人は強くてスター軍団だった。それが松井秀喜がメジャーに行き、清原も去った今では、魅力に乏しい球団に成り下がろうとしている。ファンは正直だ。自軍のチームではなく、清原に1番の魅力を感じたからこそ、その日1番の大声援を送ったのだろう。逆にいえばファンの喪失感の大きさを示す光景だ。翌日のドームにも、代打出場を願う割れんばかりの「清原コール」が渦巻いた。その穴がいまだ埋まり切っていないように思えた。
果たしてこの現実を、実際にグラウンドで戦っていたナインや球団はどう感じたのだろうか。「清原さんは特別だから」で済ませるのか。それともハッと思う選手がいたのだろうか。
個人的には清原への大歓声に感激し、胸が熱くなった2連戦。だが一方で、複雑な思いにさせられた2連戦でもあった。もしあの場面で清原が巨人の敗戦を決定づける一打を放っていれば、巨人ファンはどんな反応を示していたのだろう。果たしてみんな我に返り、静まり返っていたのだろうか。私は反対のように思う。それは巨人ファンが巨人の敗戦を喜ぶ異様な光景…。ひときわ大きな清原への大歓声がわき起こり、オレンジのタオルが振られていたような気がしてならない。
June 24, 2006 09:42 AM
