2006年06月15日
死亡事故に妥当とは:桐越聡
あくまで妥当だと言い切るのだろうか?
先週の前半。国会の衆院決算行政監視委員会をのぞくと、あの鈴木宗男衆院議員(58)が大声でまくし立てていた。
「過去に飲酒運転でモロッコ人を死亡させた人が、大使になっていますね。しかも、外交特権で逮捕されていない。当時の外務省が出した処分は停職1カ月だけ。これは妥当な処分ですか? 甘すぎはしませんか?」。
麻生太郎外相(65)ら外務省幹部は用意した紙を読み上げた。
「当該職員は国際法上の特権および免除を享有していた」「しかるべき懲戒処分は行い、その後、当該職員は職務に励んで職責をまっとうしている。処分は妥当だと考えている」。
どうせ官僚の答弁だからと、はなから期待はしていなかったのだが、人命が失われた痛ましい事故にもかかわらず、妥当だ、と繰り返して押し切ろうとするかのような答弁にあきれた。腹が立った。
そもそも「妥当」ってどんな意味だっけ? 会社に戻って国語辞典を引っ張り出すと「判断や処置などが、そのときの状況や道理によく当てはまること。適切であること」とあった。飲酒運転して人をひいて死亡させても逮捕されないのは道理だ-。停職1カ月の処分は適切だった-。外務省はそんな意味を込めて妥当だという言葉を使っていたのだろう…。
ちょっと待て。何、言っているんだ。どう考えたって、妥当なんかじゃないだろう。
外交官にはいくつかの外交特権が認められているのだから、逮捕されないという特権を利用すること自体は間違いではない。それは分かる。だけど、ウイスキーの水割りを立て続けに3杯飲んでバーを出て、そのまま車を運転した。相当の雨が降っているのに猛スピードを出してタクシーに追突し、その弾みでスクーターに乗っていたモロッコ人をひいて死亡させた。偶発的で負傷者がない事故ならまだしも、今の日本国内なら「危険運転致死傷罪」が適用されるぐらいの事故だ。それなのに、不逮捕特権を使うのが妥当なのか。
外務省が出した懲戒処分だって、釈然としないところがある。都内の洋品店で3900円相当のTシャツ1枚を盗んだ職員が停職1カ月-。都内の電気用品店で2900円相当のDVD1枚を盗んだ職員が停職3カ月-。そんな過去の処分と比較して、くだんの外交官の処分が停職1カ月なんて、あっていいものなのか。「日ごろの勤務態度」とか「諸般の事情を総合的に考慮して判断した」なんて外務省は説明しているけど、有望な大使候補者だったから停職1カ月の処分で済ませたと、でも言いたいのだろうか。
おまけに、こういった処分内容は鈴木議員が政府に質問主意書を提出して答弁を引き出すまで、公表されないままになっていたという。この件に関して、外務省がやったことなんて、何から何まで妥当なんかじゃない。何の反省の言葉もなく、ただ妥当だと言い切ろうとしているだけ、だ。「伏魔殿」と揶揄(やゆ)された役所の一端を垣間見たような気がした。
June 15, 2006 09:44 AM
