2006年05月25日
成長した新庄の演出:松井清員
私が担当していた阪神時代の新庄は、とにかく目立つことが一番の目的のように思えた。髪の毛を緑色に染めたかと思えば、ウン百万円もかけて前歯を純白にリニューアル。ランボルギーニ・チータやポルシェなどの外車で契約交渉に乗り付けては、周囲を驚かせた。悪く言えば自分が格好いいかどうかが重要な問題。ファンとの距離は、不振時の応援ボイコットなどがあったりと決して近くはなかった。
その男が転機を迎えたのがメジャー移籍だった。ファンを大切にする空気に触れて受けたカルチャーショック。そして国内復帰した日本ハムでは人気球団の阪神と違って、集客に苦心しながら汗水を流すスタッフの姿に心を動かされた。「自分にできることはなんだろう?」。単なる目立ちたがり屋が、野球界のために何かしようと目的を変えていた。今見せているサプライズの質は、明らかに阪神時代とは違うものなのだ。
その新庄が先月突然、今季限りを宣言した。開幕間もない時期の引退発表にはまた仰天させられたが、その後は襟付きアンダーシャツで試合に出たり、甲子園で阪神時代のタテジマのユニホームを着てシートノックを受けたりと、最後の知恵を絞ってファンを楽しませようとしている。だがどちらのパフォーマンスにもセ、パ連盟が注意の対象とし「以後は禁止」と待ったをかけた。いずれも理由は「マナーの問題」。でもそれぐらい、全然OKじゃないの?
「襟付きアンダーシャツ」についてはパ審判部が「映像を見たら誰が見てもちょっと違うなと思う。許可するといろんなケースが出てくる」と説明。注文をつけたソフトバンクは「青少年に悪影響を与える」との見解だった。そして「阪神ユニホーム」については謝罪までさせられた。ますますスッキリしないし、ここまでくると寂しい気分だ。
プロ野球はファンに夢を売る商売だ。個性が強く、ほかとは「ちょっと違う」ほど面白いし、パフォーマンスも「いろんなケースが出てくる」ほど面白い。その中で新庄は野球界を思い、現役中に何かできることはないかと「グレーゾーン」で規則違反ギリギリの挑戦を続けている。もし「マナーの問題」で不快と感じるなら、とっくにファンがダメ出ししているはずだ。サプライズを楽しみに球場に足を運ぶファンの数は、枠にはまった筋書きを期待するファンの比ではないだろう。新庄は言う。
「野球だけじゃこれからはダメ。若い子は見に来ない。格好良さも大事なんじゃないかと思う」。
個性的な選手が減り、ファンの野球離れも深刻な時代。もちろんパフォーマンスやファッションでお客を呼べるとは思わない。ファンが本当に見たいのはまず野球ありきの白熱プレーだろう。だがこれからの時代、それだけでファンを引き付けられるのだろうか。
日本ハム高田GMは言った。「5年後、10年後には新庄の考えが正しくなっているのかもしれない」。単なる擁護論とは思えない。新庄の行動は旧態依然の球界に一石を投じる貴重な1球だ。近年、多くの業界でも叫ばれる「カスタマーズ・サティスファクション=顧客満足度」。その重要性に気付くのは、新庄が球界を去った後なのかも知れない。
May 25, 2006 09:46 AM
