記者コラム「見た 聞いた 思った」

2006年04月18日

野球「理論」も交流を:千葉修宏

 アメリカにいると、野球の理論が日々進化していることを強く感じます。僕が子供のころ、ボールはきれいな縦回転で投げるように教わりました。それがここ10年くらいで、新球ともいえるカッター(鋭く小さくスライダー回転で曲がる直球)やツーシーム(鋭く小さくシュート回転で曲がる直球)が定番化。“ボールが動く”投手が良い投手で、きれいな球筋の投手は逆に打たれやすいということが当たり前のように言われるようになりました。

 打撃についても、理論のトレンドはあります。これまでバッティングで大切なのは、バットをリードする側の腕だと言われてきました。右打者なら左腕、左打者なら右腕です。少年野球の時なんか(僕は左打者だったのですが)、右手でバットをコントロールして左手は添えるだけ、なんて教わりました。しかし“動く直球”の登場で、この理論では投手のボールに対応しきれなくなってきました。

 カッターやツーシームのように手元で微妙に曲がる球を打つには、できるだけボールを引きつけ、球筋を見極めなければなりません。ヤンキース松井選手は大リーグ初年度、あまりの二ゴロの多さに、地元メディアから「ゴロキング」というありがたくないニックネームをもらいました。これも直球だと思って打ったら微妙にシュート回転したため、バットの先端で引っ掛けてしまったのが原因でした。

 ただ手元まで球を引きつけると、球を見極められる半面、詰まる可能性も高まります。その時、リードする腕とは反対の“押し込む腕”の力が弱いと球威に負けます。僕が子供のころに教わったように“押し込む腕”が添えるだけだと、動くボールはヒットにできないのです。だからこそ松井選手は打撃練習でも左腕の動きを大切にフォームをチェックし、米移籍後は特に左腕の筋力強化を行ったのです。

 野球をあまり知らない読者の皆さん、長々と講釈を垂れてすみません。僕が言いたいのは、これらの最新の理論は(もうすでに最新ではなくなりつつありますが)、現場にいるプロの選手やコーチ、トレーナーでないと分からないということなのです。それはどの競技であっても、競技そのものではなくコンディショニングやトレーニングの理論であっても、同じだと思います。

 もちろん優れたアマチュアの指導者もたくさんいるとは思います。ただ彼らもプロのプレーや理論からヒントを得ています。僕も取材現場でプロ選手やトレーナーの人たちと話をしていて「そんな考え方があったのか」と、はっとさせられることはしょっちゅうです。

 僕らの取材仲間に、元プロ野球選手のご子息がいます。米国の記者と食事をしている時、彼がプロ・アマ協定のために父親から野球を教えてもらえなかったという話をすると、アメリカ人記者たちは「信じられない」とあきれていました。現在、日本のプロ・アマ関係は緩和される方向にあります。早くプロの理論がほとんど時差なしに子供たちへ行き届くような環境になれば、と思います。

April 18, 2006 11:20 AM