記者コラム「見た 聞いた 思った」

2006年04月07日

日本の命運託します:荻島弘一

 サッカー日本代表のジーコ監督が緊急入院した。激しい腹痛に襲われて、2日の朝に入院。しかし、3日朝には回復し、一晩過ごしただけで退院した。4日のキリン杯会見に出席するという驚異的な回復だった。もっとも、たった1日とはいえ、日本協会のドタバタぶりは想像に難くない。

 もし今、ジーコ監督が倒れたら、指揮官を失った日本代表はどうなるのか。川淵キャプテンは「危機管理が大切」と日ごろから話しているが、さすがに監督の病気は「想定の範囲外」だと思う。世界的に見ても、監督急病で手回しよく次の監督が用意されていることなど、聞いた事もない。

 仮にジーコ監督が現場を離れれば、実兄のエドゥー・テクニカルアドバイザーが代行するのだろうか。しかし、ここまで監督の強烈なキャラクターでもってきた代表。いくら監督の考えを理解する現場スタッフでも、かじ取りは難しい。そういう意味でも、大したことがなくて「本当に良かった」ということだろう。

 もっとも、安心はできない。またいつ、体調を崩すか分からない。今回の腸炎も原因は心身に及ぶ疲労が原因と思われる。ジーコ監督本人は「食あたり」と説明していたが、入院にまで至るのは体が弱っている証拠。4月は代表の活動がないとはいえ、5月になればまた多忙な日々が続く。心配の種は尽きない。

 代表監督の職務だけならいいが、スポンサーへの対応、イベントへの出演など日本の「顔」としての仕事もある。そして「負けず嫌いで完ぺき主義」な性格。自分の仕事は、100%こなさないと気が済まないのだ。キリン杯会見も、日本協会側は欠席を勧めたが、本人が出席を望んだ。完ぺき主義が、ジーコ監督の心身を疲れさせている。

 「私にストレスなどはない」と強気に言い放つが、素顔は繊細だ。人に対する気遣いがきく分だけ、周囲の評価も気になる。それを口に出すような性格ではないが、それでも親しい周囲の人間には「疲れた。(代表監督を)やめたい」と口走ることがあるという。

 「ブラジル代表監督? 絶対にやらない。ストレスで、胃がいくつあっても足りない」と話したのは、日本代表監督就任前だった。全国民が代表監督と言われるブラジルでは相当な重圧がかかるが「日本ならば大丈夫」と思ったのか。しかし、実際にはかなりのプレッシャーがあったはず。91年に住友金属(現鹿島)入りして以来、日本の「サッカー後進国」ぶりを見てきただけに、重圧が想像できなかったのかもしれない。

 クラブ人気が高い欧州や南米より、マスコミ報道などが代表偏重になりがちな日本の方が、ある意味では代表監督への重圧はある。歴史が浅い分、正確に自国の力も把握できないから、国民の求めるレベルも高くなり、現実とのギャップに悩むことになる。ストレスがないわけはない。

 ジーコ監督については、賛否両論あるだろう。しかし、間違いないのは、ここまで来たら命運を託すしかないということ。あと2カ月、健康でいてくれることを願うばかりだ。少なくとも、ジーコ監督のカリスマ性は、日本よりも世界で、W杯の大舞台でこそ日本の力になると思うから。

April 7, 2006 10:40 AM