2006年03月23日
国旗の下だからこそ:山内崇章
4年前に韓国で公開されたある恋愛映画でこんな場面が出てくる。若い男女がテレビでサッカー観戦。ヒロインが「日本対韓国」の大一番に夢中になっているところ、彼女にほれ込んだ男が思いを告白する。彼女が返したセリフは「神聖なる韓日戦を前に何を言うの!」。場の空気を読んでよ、とほおを膨らませる。
95年の一時期、ソウルで学生生活を送った。このときも似た空気を感じた。やはりサッカーの日韓戦が行われた日。下宿の居間には、寝食を共にする15人の男子学生が結集。一喜一憂、テレビに向かって声を張り上げていた。心を1つにし、純粋に代表選手に声援を送る姿に圧倒された。
自国の勝利を心から願う姿勢は日本人も同じだ。しかし、当時からどこか私たちとは違う感覚があるように思えた。「神聖なる戦い」と表現される国家代表の一戦。そこには韓国特有の国を愛し、思いやる自然な国民感情が浮かび上がる。
野球の世界一を決めるWBCで、日本は見事に優勝を成し遂げた。一方で、その日本に2勝した韓国の強さはとても印象的だった。私個人、日本はアジア最強だと確信していただけに、悔しい気持ちも残った。
韓国の躍進の背景には、大会そのものに向かう姿勢にあったのではないか。韓国スポーツソウル紙の記者は「選手もスタッフも、国民の後押しで1つになった結果だ」と語る。メジャー、国内選手を問わず代表入りをためらうものは皆無だった。「太極旗のユニホームで国のために戦う。国同士の決戦の前に、直後のシーズンを心配する人はいません」とも話していた。
スタッフも万全だった。金寅植代表監督は、国内のハンファ監督。脇を固めた宣銅烈投手コーチはサムスンを、金在博打撃コーチは現代を指揮する現役監督だ。日本代表ならソフトバンク王貞治監督の下で、巨人原辰徳監督が打撃部門を統括、横浜牛島和彦監督が投手コーチを務めたようなもの。直近のペナントレースを度外視し、国家代表の勝利を一義的に追求する姿勢が韓国にはあった。
同記者は続ける。「旗の下でふがいない戦いをしては国民は許さない。国の期待を背負うからには最高のメンバーとスタッフが必要。その中で選手たちは、普段は出せない力も出した」。国民の高い関心はチーム編成にも強く影響を及ぼしている。選手らのモチベーションの高さも、それと無関係ではないようだ。
王監督の下、日本選手らの執念も決して韓国に劣っていなかった。だからこそ3度目は見返せた。冷静で紳士な振る舞いで知られるイチローが、歯に衣着せぬ口調で韓国国民から反発を買った。それほど勝ちへの執念はにじみ出ていた。
ただし、わずかでも目前に控えたシーズンとてんびんに掛けた節が、日本になかったか。個々が重きを置く価値を一概に否定はできないが、本気で臨んだ韓国の強さは鮮明に現れていたように思えてならない。
19日の準決勝を中継したTBSの平均視聴率は36・2%、試合終了直後には瞬間最大視聴率50・3%を記録した。WBCは3年後にも開催される。日本の国民だって、韓国に負けないぐらい国家代表に声援を送る力を持っている。
March 23, 2006 10:52 AM
