記者コラム「見た 聞いた 思った」

2006年03月22日

32歳“自分の居場所”:小林千穂

 私事ですが、おとといは誕生日でした。年齢なんて気にしません。なんて気負っていても、やっぱり気にしてしまう。ああ、32歳、今の自分は望んでいた姿なのかとか、この先は…とか。誕生日なんてなかったことにしようかとも思ったが、今度レンタルビデオの会員証を更新するときには「32歳」って書かなきゃいけないし、このコラムのプロフィルだって書き換えなきゃ。何人かの友人や家族からの「おめでとうメール」も複雑な気持ちで眺めてしまった。

 何日か前、40代半ばの俳優にインタビューした。新作映画では年齢相応のさえない中年男を演じていた。それまでのパワフルなイメージとはあまりに違っていたので「年齢をさらけ出す役って勇気いりませんか。老いていくことを認めるって怖くないですか」と問うた。彼はこう答えた。「気負うのは自分や自分の居場所が好きになれないからですよ」。トップで活躍し続ける彼だからこそ言える言葉だと思い、すっと染み込んでこなかった。遠い世界の、遠い言葉という気がした。あるいは、彼も気負いを隠しているのか、とも思った。

 誕生日にもらった友人からのメールの1つに、これまでの職場を辞めること、同じ職種だが新しい場所で頑張ることなどの近況がさらりと書かれたものがあった。その人はかつて自分の仕事について「私の天職だと思う」と言ったことがあったのだが、その言葉を実践している決断は、生活の計に仕事をしているような毎日を過ごしていた私には、果てしなくうらやましい決断に思えた。「何かを見つけたい」とか「本当にしたいこと」なんて言葉、本当に大っ嫌いで、こっ恥ずかしいだけなんだけど、心の底ではそんな言葉が渦巻いているのも確かだ。

 さて、その19日、芸能取材の現場は、ちょうどWBCの日本-韓国戦と時間が重なり、ソワソワした雰囲気に包まれていた。そこにいるほとんどの人が、携帯で試合速報を見ていた。タレントが登場する直前、報道陣の1人が、会社でテレビを見ている人からの「速報」メールを読み上げた。「福留が先制2ランだって」。全部で15人くらいしかいない現場だったけど、確実に全員が「おぉ~」っと声を上げた。いつもは冷静な某テレビ局のリポーターが、本当に跳びはねていた。直後のタレントへの質問に、野球の話題が加わったことは言うまでもない。タレントもひときわテンション高く「王ジャパン、おめでと~!」。むりやり感も否めなかったけど、ひねくれた(?)人たちがそろっている芸能の現場が、そわそわしちゃう出来事はそうそうないんです。

 本当にちっちゃいことですが、ちっちゃくても生に直結してる雰囲気を味わえるのは現場にいるからこそ。「遠い世界の言葉」とか「うらやましい」なんて思っていたけど、こんな雰囲気が好きなんだな、と。ちっちゃいと言えば、その日の夜「遅くなつたけど誕生日おめでとう」という、ちっちゃい「っ」を打ててない家族からの携帯メールを見て、もうちょっと頑張ってみるか、とも思ったのでした。

March 22, 2006 10:11 AM