2006年03月18日
「棺おけ」無用の信念:荻島弘一
「棺おけに片足突っ込んじゃったよ」。Jリーグ初年度にV川崎(現東京V)の監督に就任した松木安太郎氏は、会見後に苦笑いした。最初は「大げさだな」と思った。アマチュア時代の監督は基本的に社員で、やめても部長になったり、スカウトに転身したりと道はあった。多くは長期にわたって務め、シーズン中の交代も珍しかったからだ。
しかし、松木さんの言葉を実感するまで、時間はかからなかった。契約半ばの解任も普通になった。コーチの時はいいが、監督になったら後は退任(解任?)を待つだけ。監督をやめた後は、チームも去るのが当たり前になった。「プロだから」という言葉に、何の違和感もなくなった。
とは言うものの、横浜FCの監督交代には驚いた。わずか1試合。解任された足達氏も、コーチから昇格した高木氏も、驚いたことだろう。フロントは「1試合だけの結果ではない。昨年のキャンプから総合的に判断して」決めたという。ならば、どうして昨年のオフに交代しなかったのか。
若手育成に定評のあった足達監督が昨年就任した時は、J1昇格へ長期的な目標を立てていた。契約期間も07年1月までの2年間だった。ところが、シーズン中にチームの体制が変わり「すぐJ1へ」となった。FWカズを獲得し、MF山口を入れ、大幅にメンバーを入れ替えた。ただ、監督だけは代えなかった。
「若手を育ててくれ」から「J1に上がってくれ」と突然目標を変えられたのだ。足達監督は戸惑ったと思う。ある意味で、チーム変革の犠牲者だった。高木監督は「J1昇格」を目標にコーチに就任したからまだいい。しかし、それでも開幕2試合目から監督をやるとは思っていなかったはず。こちらも犠牲者だ。
シーズン前から指揮をしていれば、成績不振も自分の責任として納得がいくだろう。しかし、わずか1試合での監督交代。何かを修正する時間もないまま、試合がある。すごく損な役回りだと思うが、高木監督は前向きだ。「それも監督の楽しさだから」と、ネガティブなことを口にしない。
現役時代のFW高木は、しんの強い選手だった。代表戦で絶好のチャンスに簡単なトラップをミスした。マスコミも、サポーターも一斉にたたいたが、黙って耐えた。実は足首を痛めていて、満足に動かない状態だった。「ケガだと言えばいいのに」と言うと「言い訳はできませんから」と言い切った。ラモスやカズら有言実行の選手が急増した時代の不言実行。国見-大商大で培った精神的な強さは、半端ではなかった。
高木監督は「棺おけに片足-」とは思っていないはずだ。初めての監督業を楽しんでいる。就任10日目の16日の練習後も「楽しんでいますよ。プレッシャーも現役の時に比べたら、大したことはない。やるのは選手ですから」と、笑顔で話した。チーム状態は決して良くない。それでも、立て直しにやるだけのことをやって、あとは「選手を信じる」と言い続ける。持ち前のおおらかさと明るさを支える強い信念。日本を初めてアジアの頂点に押し上げた元日本代表ストライカーの足には、棺おけなど似合わない。
March 18, 2006 11:09 AM
