2006年03月05日
ミス喜ぶ寂しい歓声:村上秀明
輝かしい金メダルの裏で、寂しい思いがした。
2月26日に閉幕したトリノ五輪。日本勢最高の盛り上がりは、もちろん同23日のフィギュアスケート女子シングル・フリーだった。各国のメディア、オリンピック委員会の事務所ブースが集まったメーンメディアセンター(MMC)で、日本の関係者が隣接するエリアでは、テレビ観戦者が当然のごとく燃え上がった。
近くを警備する警察官2人が、見回りに来たほど、拍手と「キャー」という大歓声に包まれた。最高の舞台で最高の演技をした荒川の金メダル獲得に大興奮だった。フィギュアスケート界初に加え、今大会の日本勢唯一のメダル。大喜びして当然だが「違うんじゃないの」と思うことが、その直前にあった。
荒川の登場直前に演技したショートプログラム首位のコーエン(米国)の演技がテレビ画面に映し出されたときだった。出だしのジャンプで転倒。その瞬間、日本の関係各所から「やったー」「いいぞ!」という声が聞こえた。次のジャンプでも両手をつき、再び「オー」という失敗を喜ぶ大歓声。恥ずかしい気分になった。
荒川にメダルを取ってほしいという気持ちは、もちろん自分もあったし、分かる。「30年ぶりのメダルゼロか」とささやかれ始め、日本選手団にとっても本当に欲しかったメダルだっただろう。実際、日本メディアも地元紙に「メダルのない日本メディアが大挙して有力選手を追い掛けている」と、皮肉られた。本当に救世主だった。
荒川の素晴らしい演技に拍手喝采は当然のこと。ただ、コーエンの演技のミスで大喜びするのはどうなのか。最終滑走だった優勝候補スルツカヤ(ロシア)の演技ミスでも同様に歓声が上がった。もし、競技場内で同じ盛り上がりをしていたらと想像したら、何か情けなくなった。
スピードスケート会場は、連日、スケート王国オランダのファンが大挙詰めかけた。男子5000メートルでは、オランダ人が一時首位に立ったが、すぐに米国人が逆転優勝。その瞬間はため息が漏れたが、優勝者のウイニングランでは大きな拍手でたたえた。女子1000メートル優勝のティメル(オランダ)は「彼らは平等。だってスポーツを楽しんでいるから」と言った。
大リーグで野茂英雄は96、01年と2度のノーヒットノーランの偉業を達成した。ともに敵地での快挙だったが、観客は敵味方関係なく、総立ちのスタンディングオベーションで称賛したという。ひいきのチームが無安打無得点されるのは決して気分のいいものではない。それでも「素晴らしいものは素晴らしい」と、認めることができる価値観がある。これがスポーツを心からエンジョイしている姿ではないかと思う。
コーエン、スルツカヤはともに失敗したが「金メダルを取る」という執念は十分に伝わってきた。五輪は確かに国別対抗の色合いはあるが、一生懸命だった全選手に拍手を送りたいと思った。
March 5, 2006 10:19 AM
