記者コラム「見た 聞いた 思った」

2006年01月25日

欽ちゃん「100万年早いわ!!」:松井清員

 マリナーズ・イチロー選手の自主トレパートナーを知っていますか? 藤本博史さん、29歳。南海やダイエーで活躍した“ヒゲの藤本さん”ではありません。1軍経験はないものの、米独立リーグを経てオリックスに02年から2年間在籍した同姓同名さんです。実はこの人、欽ちゃん球団「茨城ゴールデンゴールズ」の正妻で主力打者。大塚製薬と専属契約を結び、登録名は同社の商品名を冠して「アミノバリュー藤本」と言います。それにしても世界のイチローと欽ちゃん球団のコラボとはこれいかに?

 これだけではありません。3月のWBC日本代表メンバーにも選ばれました。選手登録ではありませんが仕事はブルペン捕手。上原や松坂、藤川らの球を受けるわけです。裏方さんとはいえ、同じ日の丸のユニホームを身にまとう王ジャパンの一員。しかも勝敗を左右する投手陣の調整役を任され、時には打撃投手まで務めるとか。

 「欽ちゃん球団やから、野球もふざけてやってると思ってたんとちゃいます?」。イチロー自主トレ取材中、藤本さんは核心を突いてきました。そう、図星でした。テレビで流れる映像のほとんどは欽ちゃんのマイクパフォーマンス。どうしても“お笑い野球”のイメージが強かったのです。でも欽ちゃん球団の実情は想像とは正反対。プロ並みの厳しさがありました。

 西武黄金時代を支えた鈴木康友さん、羽生田忠克さんをコーチに招へい。土木工事など各人が仕事を終えた夕方4時から9時まで5時間の猛特訓です。最後は嘔吐(おうと)するほどの坂道ダッシュなど、メニューは常勝西武の基礎を築いた下半身づくりの「走と守」が中心。「もう1度挑戦したい」と言う藤本さん同様、選手の究極目標はプロであり、練習には妥協もお笑いもないのです。

 契約もシビア。藤本さんも1年ごとの契約更新で、成績次第ではクビもあるといいます。昨年10月の新人オーディションに17人が合格した陰で、15人の選手がチームを去りました。そんな環境でハングリーにプレーする藤本さんだからこそ、イチローが6年間も自主トレの相棒に指名。昨年欽ちゃん球団でヘッドコーチを務め、日本代表スタッフの元巨人の鹿取義隆さんも、王監督に推薦したのでした。

 チーム結成間もないころ、客席にギャグを飛ばしたある選手が、欽ちゃんにしかり飛ばされたそうです。「100万年早いわ! 君たちは野球人。一生懸命野球をやって勝ってお客さんを喜ばせなさい!」。欽ちゃんのパフォーマンスはあくまでファン拡大を目指した“客寄せ”。選手にはギャグ禁止令まで出し、ガチンコ勝負を求めているのです。

 そんな欽ちゃんに電話取材。すると藤本さんにとびきりのエールを送ってくれました。「地道にやってきたことが認められ、クラブチームから世界の真っただ中に飛んでいく。欽ちゃんも含めてチームのみんなをWBCに連れて行ってくれた気分です。世界の野球に触れてデッかくなって、たくさんお土産を持ってきて欲しいなあ」。藤本さんは言いました。「必ず恩返しします。今年こそ都市対抗に出られるように」。

January 25, 2006 12:30 PM