2006年01月24日
裏切られる心地よさ:村上秀明
突然ですが、裏切られたことはありますか?
自分は何度も裏切られてきたといえる。信頼していた人に裏切られるのは、誰でも嫌なことだと思う。ただ「いい意味で」という前置きの言葉を付けると、ワクワクする一文に変身する。いい意味で裏切られる、ここに面白さの原点があるような気がする。
今月17日、第134回芥川賞、直木賞の選考会が開かれ、直木賞に東野圭吾氏(47)の「容疑者Xの献身」が選ばれた。原作の「白夜行」が今月からテレビドラマになるなど、売れに売れている作家だ。デビュー21年目、6度目の候補でようやく栄冠にたどり着いたミステリー作家こそ、自分を何度も裏切ってくれた張本人なのだ。
謎解きミステリーは不利とされる直木賞の常識を覆した形だが、作品も最後に大どんでん返しが待っているものが多い。4、5年ほど前に、週刊誌の連載を目にしてから、書店に並んでいるほとんどの文庫本は読み尽くしてきた。決して読書が趣味というわけではない(正確に言うと東野作品以外はほとんど読まない)が、完全にはまっている状態なのだ。
なぜ、ここまで魅了されるか。答えは、いい意味で裏切られるからという以外にない。作品のクライマックスで奇想天外な犯罪トリック、犯行動機、人間関係などが押し寄せ、「そう来たか」と何度も驚かされ、少し悔しくなってしまうくらい感心してしまう。もちろん、本の好き嫌いは十人十色でミステリー嫌いの人もいると思うが、自分はこの意外性を心地よく感じる。
一昨年の大みそか、ボケが売りのタレント、ボビー・オロゴンがK-1ファイターのアビディに大金星の判定勝ち。「史上最強の初心者」の触れ込み通り? だったが、格闘技歴1年のデビュー戦とは思えない意外性が、テレビ画面から離れなくさせた。お茶の間の期待をいい意味で裏切った頑張りだった。
昨年は、9年連続Bクラスだったロッテがプロ野球の日本一に輝いた。ロッテファンではないが、投手陣の安定感、スタンド応援の盛り上がりなど、気になることばかりだった。低迷してきたチームが想像以上の強さ(ロッテファンの皆さん、ごめんなさい)で前評判を覆した快進撃は、当然ながら注目を集めた。
横綱朝青龍が圧倒的な強さで勝ち続けるのも痛快だが、予想外の金星で館内に多数の座布団が舞うのも興奮する。スポーツだけでなく、お笑い、エンターテインメント、さらに突き詰めればスポーツ新聞も同じかもしれない。新聞の基本は守りながら、いい意味で裏切るところから、人々に興味を持ってもらえるのだと思う。
受賞後の東野氏は、今後の抱負をこう口にしたという。「これからも読者の期待を裏切らないように、裏切るときはいい意味で裏切るようにしたい」。
遊び心たっぷりの裏切りが込められたミステリー作品なら大歓迎と思い、その一方で、自分自身への教訓「裏切りの勧め」にも聞こえた。
January 24, 2006 11:46 AM
