記者コラム「見た 聞いた 思った」

2006年01月22日

組織のため語り継ぐ:山内崇章

 2月1日の春季キャンプインがすぐそこに迫っている。プロ野球選手たちが真新しいユニホーム姿でいよいよ動きだす。彼らは今、シーズンのスタートに備え、自主トレの最終調整に入っている。1年間戦い抜くエネルギーを蓄えようと必死に自分を追い込んでいる。

 1月の自主トレは、ベテラン選手が後輩たちを引き連れ、合宿形式で行うケースが多い。基礎体力の向上もさることながら、先輩と後輩の間で密度の濃い交流が行われるのも特徴だ。両者間で繰り返される指導と学習、世代を超えてじっくりと話し合う機会だ。

 先日、三重県伊賀市で山ごもりをする横浜土肥を取材した。昨年プロ初の2ケタ勝利を達成、先発の柱に成長した9年目の左腕だ。2年目の岸本との練習中、後輩のフォームをチェックし、腕の振り方、球の回転、握りを細かくアドバイスする姿が目に留まった。

 5年前の西武時代の土肥も、同様に先輩の後を追うように自主トレに臨んだ。足腰の鍛錬、持久力強化を目的とした青森でのスキートレ。慣れないスキー板で先輩を追い掛けたのは「1日も早くいっぱしになりたい。投球の基本、毎日マウンドに立つ中継ぎの心得を学びたいから」だった。

 ベテラン遊撃手、石井の自主トレも、同じ遊撃手の若手3人を引き連れてのものだ。エース三浦もそう。5人の若手にスライダー、カットボールを伝授し、コーチさながら親身なアドバイスを送っていた。自主トレは、自己鍛錬の場であるが、後輩たちにとっては、実績を残した先輩の技を吸収する格好のチャンスだ。

 それにしても、プロ野球選手は個人事業主だ。素朴な疑問が浮かぶ。選手個人と球団が契約を結び、求められた成績を収め続ける限り、報酬は保証される。ベテラン選手にしてみれば、若手の台頭は自分自身の野球生命の死活問題にもなりかねない。それでも伝えるのはなぜか。

 三浦「確かに若いころは自分のことだけで精いっぱいでした。でも今は違う。自分だけ良くてもチーム全体は強くなりませんから。チームが勝つことが最大の目標。優勝したいじゃないですか」。

 石井「30代前半までは、こんなことは考えられませんでした。もっとも、自分のための野球だし、簡単に譲る気はありません。でも、横浜に入って、横浜に育つ彼らに託したいという気持ちもあります。自分が組織のために何を残せるか。大事なことです」。

 受け継がれた貴重な財産は、後輩にも見える形で伝えていく。上から下へ。強い組織の形成、将来の発展に世代間のリレーは欠かせないというのである。個人事業主とはいえ、彼らの言葉からは組織への強い帰属意識がうかがえる。

 三浦、32歳。石井、35歳。長くて40歳前後で現役を終えるプロ野球界。一般企業ならば、かなり上の管理職の位置付けだろう。語り継ぐ責任を自覚し、組織の将来を考えられるだけの実績も積み重ねてきた。

 会社に入って今年10年目。自分も、いつしか後輩からアドバイスを求められるケースも増えてきた。気付かされるのは語り継ぐ材料の少なさと、物事を教えることの難しさ。組織のために何を残せるか―。そんな帰属意識は自分にあるか。今すぐ言えない言葉でも、指導と学習のはざまで、ぬるま湯に漬かることだけはしたくない。

January 22, 2006 11:14 AM