記者コラム「見た 聞いた 思った」

2006年01月01日

06年、話し合いの年に:山内崇章

 【台場】6月。フジテレビの幹部が、ライブドアとの業務提携が進まない現実を冷ややかな目で見ていた。「根本的に企業風土が違う。彼らはスピード、スピードと早急な結論を求めるが、全く違った会社が一緒に仕事をするわけだから、綿密な話し合いがあって当然。提携は難しそう」。

 2月にライブドアが時間外取引で、フジの筆頭株主だったニッポン放送株35%を取得した。法的な正当性はあっても、仁義を欠いた先方のやり方にフジの不信感は最後まで消えなかった。

 フジ幹部は続けた。「IT業界のネットビジネスのノウハウは魅力的だし、次世代を見据えた拡大戦略はすごい。ただ、円滑に話し合うには手続きがあまりに乱暴すぎた」。取材を通じて感じたのは「勝ち組」と称されるITの瞬発力は、万能ではないということ。人は、能力やもうけを度外視しても話ができるパートナーとの付き合いを望む。

 【秋田】11月。小学校の教師をしている学生時代の友人が電話口でため息をつく。「本当にこれでいいのかな」。職員会議では、広島、栃木で起こった下校中の女児殺害事件が議題になった。PTAとも協議して即座に実行したのは、保護者への携帯メールを使った帰宅案内。携帯のない親には自宅へ直接電話する。

 先生は、放課後の学級会で「知らない人とは話さないように」と指導する。葛藤(かっとう)もある。「人と人が心を開いてお話しできない今の環境が事件を招いたのだと思います」。孤独、疎外感が生んだ事件だと先生は言う。

 大人の失点を、そのまま子供たちに押し付けてはいないか。「知らない人を信用するな」と教育された子供は、将来どんな大人になるのか。不信は不信を助長する。悪循環を断ち切るためにも、先生は「信頼できる人もたくさんいることも教えたい」とも話す。

 【ソウル】12月。現地在住の芸能記者らと忘年会。ここ2年、韓国芸能を取材しながら、彼らの表情には二面性があることを知らされた。韓流スターが、文化交流の先端となって日本で受け入れられた。韓国の言論も唐突な熱気を好意的にとらえた。

 一方で竹島問題や小泉首相の靖国神社参拝に、血相を変えて議論を挑んでくる記者もいた。「独島(竹島)は日本のものか、韓国のものか、君の明確な意見を聞かせてほしい」。その口調は後者だけの答えしか許さない厳しさを伴っていた。小泉首相は「心の問題に他人が干渉すべきでない」と参拝の正当性を主張した。

 個々が意見を持ち、主張することは大切なことだ。それが、相手の意をくみ取らず、傷つけるものなら話は永遠に平行線をたどる。両国による歴史研究会の発足、追悼施設の建設、時間がかかっても話し合う余地はたくさんある。まずはその出発点に立とう。目をつり上げて話していた記者が和らいだ表情でうなずいてくれたのは、何も焼酎だけの力ではあるまい。

 人の心をつかむ、第1歩は話し合いだと思う。話し合わない限りその人が、信頼できるパートナーか分からない。失われた信頼関係も話し合いなしには修復できない。自分のことで精いっぱい。そう言わずに人と話し合いたい。06年はそういう年にしたい。

January 1, 2006 10:27 AM