記者コラム「見た 聞いた 思った」

2005年12月29日

来年さらなる衝撃を:高木一成

 有馬記念が終わった。

 今年1年の競馬人気を引っ張ってきた3冠馬ディープインパクトは2着に敗れた。1着流しの馬券を大量に持っていたので、もちろん応援はしていたが、仕事だし頭は冷静な部分もある。ゴール手前では「ああ、これは届かないな」と覚悟した。スタートから約2分30秒でボーナスの一部がパー。その事実を忘れたいこともあり、すぐに検量室に取材に行こうと気持ちを切り替えたが、ゴール後のシーンには何か違和感を感じた。

 違和感の正体が分かったのは、原稿を書き終わって、秋のG1シーズンの予想企画に参加してもらっていた矢部美穂さんと話したときだ。「よく、ゴール前で外れたファンが馬券とか新聞を放り投げるじゃないですか。それが全然なかったですね。なんかシーンとしてましたよ」。それを聞いてなるほど、と思った。

 スタートのファンファーレが鳴ったときの、ファンの手拍子は、さすがに有馬記念史上3位の16万2409人が入っていると思わせる迫力だった。だが、ゴール後は歓声にせよ、怒号にせよ、いつもの喧騒(けんそう)はなかった。「あれ、先頭で通り過ぎたのディープじゃなかったよね?」「ゴールはどこ? もう終わっちゃったの?」。負けた事実が把握できず(したくなく?)、どう反応していいか戸惑ったファンが多かったのではないだろうか。

 “静けさ”が違和感の正体だった。自分の競馬経験の中でも、そんなシーンは初めて。それほど多くの人に「間違いなく勝つ馬」と思わせ、「ぜひ見たい」と競馬場に足を運ばせたのだから、インパクトが、どれだけ多くの人に競馬に目を向けさせたかは想像に難くない。

 今回の敗戦により、マスコミやファンが先行気味に期待していた世界での活躍はしばらくお預けになった。とりあえずは来春の天皇賞で、あらためて日本最強の座を目指すことになる。年間を通して世界で戦ってほしかった気もするが、今回インパクト人気の影響で新たに興味を持ったファンが、競馬そのものの面白さに気付いて定着してもらう時間ができたという意味では良かった部分もある。そう信じたい。

 レース後、有馬記念を観戦した岡部幸雄元騎手にちょっとだけ話を聞けた。「1度負けて気が楽になった部分もあるから」というフレーズが印象的だった。コンビを組み、無敗で3冠馬になったシンボリルドルフは、今回のディープインパクトと同じ3歳のときにも有馬記念を制しているが、菊花賞後のジャパンCで3着に敗れた後だった。有馬記念の結果で“衝撃”の印象度が薄れたファンは多いかもしれない。だが、無敗のプレッシャーから解放されたインパクトは、来年またさらに大きな“衝撃”を引っ提げて帰ってくるはず。1度の敗戦で興味を失うファンが出ないことを願う。

 競馬界の05年は、間違いなくディープインパクトの年だった。競馬人気復興の下地を作ってくれた功績は大きい。06年はインパクト1頭だけでなく、そのライバル、次世代のクラシック争いなど、競馬そのものが、もっと注目される年になってほしい。

December 29, 2005 03:23 PM