記者コラム「見た 聞いた 思った」

2005年12月26日

「対心」を忘れた耐震:桐越聡

 10カ月ほど前に起きた、こんな事故をご記憶だろうか?

 ◆2月8日午後8時ごろ、東京都豊島区の築30年の木造アパート2階に住む地方公務員男性(56)の部屋の床が、ため込んでいた雑誌や新聞の重みに耐えきれずに抜け落ちた。約2時間後にレスキュー隊員に救出された男性は全身打撲の重傷も命には別条なし。1階に住む無職男性(75)は「上の部屋の床が抜けそう」と警視庁目白署に相談に行っていたため、間一髪無事だった。

 6畳1間に総重量8・5トンの雑誌や新聞が積まれていたという。こんなことがあるんだ、と強く印象に残った事故。その後どうなったのだろうかと気になっていた。数日前、現場に足を運んだ。

 アパートは元通りになっていて、人が住んでいる気配がした。不動産会社を訪ねると「改修しました」。骨組みはしっかりしていたため取り壊さなかったようだ。バス、トイレなどほとんどが新品に変わって5万5000円の家賃はそのまま。7月中旬からは新しく契約した人が住み始めたという。

 住人は事故があった部屋だと分かって住んでいるのだろうか? 不動産会社の男性社員は「ちゃんと説明して、納得した上で契約してもらいました」と笑みを浮かべて、こう続けた。

 「うちのような町の不動産屋は信頼を失ったら終わり。部屋で“ネズミの運動会”があるのを、たまたま知らずに、説明しないまま貸したら仲介手数料は返している。おばあちゃんが住む部屋の隣は、生活時間帯が違う若者にはなるべく貸さないとか、いろいろと配慮もしている。この商売は売ればいい、貸せばいい、だけじゃあいけない。誠意を持って、人情的なことを大事にしていかないと。それをさ、あの人たちは忘れちゃったのかね」。

 マンションなどの耐震強度偽装問題が発覚して1カ月が過ぎた。

 高級外車に乗る生活レベルを維持するには、技術者としての誇りは捨ててもいい。違法行為に走らせてしまうほど他人を追い詰めても、利益が増えればいいんだ。疑わしいとうすうす気付いても、専門家以外には分からないだろうから黙っていればばれない。困っている人がたくさん出ても、法律に基づいてやったのだから間違っていないと開き直ればいい-。責任転嫁のバトルを繰り広げる“あの人たち”の言動には、そんな疑いの目を向けてしまう。

 今回の問題に限らず、当たり前と思っていることがガラガラと崩れている時代。例年に増して企業の不祥事が相次いだ05年だった。正義とか、誠意とか、潔さなんて通じない時代になってしまったのだろうか。こんな日本に誰がしたと叫びたい、気分だ。

 くだんのアパート2階に住んでいた男性は事故後、勤務先を退職。アパートの改修費や1階に住んでいた男性の家財弁償代、収集車13台分のごみ運搬代など不動産会社が請求した約640万円を退職金から一括払いしたという。

December 26, 2005 01:05 PM