記者コラム「見た 聞いた 思った」

2005年12月22日

カブ気持ち取り戻せ:山内崇章

 来季、日本で6年目のシーズンを迎える西武アレックス・カブレラから、以前こんな話を聞いた。

 「野球は80~90%がメンタルのスポーツだ」。

 打席に入った直後の彼は、上体を大きく背後に反らす動作を必ず行う。元に戻す際には腹の底から息を吐き出し集中力を高める。「メンタルの状態がその日の打席を左右する。ピッチャーを見ながら、頭の中でボールを上からつぶす映像を描ければ、現実にそういう打ち方ができる」。

 シーズン開幕前には、その年の成績をよく予告していた。「今年は50~60本は打てる。それほど感触がいいし、自信もある」。02年には日本タイ記録となる55本塁打を本当に打った。あの自信と集中力はどこからくるのか。連日取材で彼を直撃した記憶は、今も鮮明に残っている。

 「身体能力が優れ、高度な技術を持つアスリートでも、メンタルを管理できないと宝の持ち腐れになる」。02年から西武でメンタルトレーナーを務める鋒山丕(ほこやま・はじめ)氏の話だ。当時の取材ノートに記される同氏のトレーニング法は、カブレラも取り組んでいたものだ。

 【自己コントロール】外部から重圧を感じないよう自分をリラックスさせる。カブレラのように腹式呼吸(腹部で呼吸をする感覚)を行うことが効果的。

 【自己暗示】自分は打てる、必ずできる、と繰り返し言い聞かせる。

 【イメージ】理想の打ち方を頭に描く。普段からビデオ映像を繰り返し見て脳裏に焼き付ける。

 心に余裕と自信があってこそイメージ力もアップする。習得までの時間に個人差はあれ、心掛け1つでどんな選手も変われるという。同氏によると、カブレラは、松坂らと並んでメンタル面が非常に優れた選手だという。もともとパワーヒッターとして高度な技術を持つ選手だ。集中力までアップすれば、相手にとってこれほど怖い敵はいない。

 その彼がここ2年間、寂しい成績で終わっている。今の彼が、当時のように「来年は50発打つ」と自信満々に言えるだろうか。関係者からは、守備の緩慢さに加え、バットスイングの鋭さも以前のものではないとの声が聞かれる。01年の初来日から3年で154本塁打、351打点(年間平均117打点)を記録した選手だ。04年に右手尺骨を骨折したとはいえ、最近2年で61本塁打は、少し寂しい。

 シーズン後、球団から来季の契約交渉に応じるように言われても、なかなか回答を出さずにファンをやきもきさせた。モチベーションを失っているのでは、と疑いたくなる。チームの意志統一、守備における連係プレーの徹底、グラウンドの内外で求められる規律は、奔放な性格の彼がベストなメンタルを維持するには難しい環境にあるのかもしれない。それでも、来季も西武でプレーをするからには思い起こしてほしい。「野球はメンタルのスポーツ」ではなかったか。

 前巨人の清原が10年ぶりにパ・リーグに復帰する。カブレラが一目置く存在のニッポンのスラッガーだ。ファンのだれもが注目するホームラン対決で、球界に新たな話題を吹き込んでほしい。心掛け1つで変われるはずだ。もう1度すごいカブレラが見たい。

December 22, 2005 09:39 AM