記者コラム「見た 聞いた 思った」

2005年12月16日

卑劣な犯罪を許すな:桐越聡

 都内に住む男性(38)は怒っていた。「まんまとだまされた。飛び込み営業は難しいものだと分かっていたから『大変だな』という同情もあって契約したのに、恩をあだで返されたようなもの。あの営業マンは絶対に許さない」。

 男性は私鉄沿線にある精肉店で働く。地方から上京した男性の父親(64)が30年以上前に始めた家族経営の店だ。安さが売りの大型店の進出が激しい地域にあって、住民との信頼関係を大切にしながら、生き残ってきた。

 そこに作業服姿の営業マンが飛び込んできたのは今夏。「月額は同じで新タイプの電話機が使えます」と、電話機のリースを勧めてきた。それまで家庭用兼事務用の電話機3台をリースしていた男性は「月額は変わりませんね」と念押しして契約した。しかし、11月に銀行口座からの毎月の引き落としが始まると、1カ月の支払いは約6000円増えていた。

 「話が違う」。抗議した男性に営業マンは「きちんと説明しました」と平然と言い返してきた。あとは言った言わないの水掛け論。男性は個人としてではなく、個人事業者として契約を結んだため、一般消費者を対象にしたクーリングオフ(無条件解約)は適用されない。月額1万6000円の7年契約が重くのしかかっている。

 調べると、相手は零細事業者を狙い詐欺商法を繰り返している悪質業者だと分かった。男性の父親は「オレは信用が大事だと正直に商売してきたけど、ウソをついた、あの営業マンはどんな気持ちで仕事しているんだろう。奥さんや子供に何と言っているのかな。人として恥ずかしくはないのかね」と、ため息交じりに話した。

 今年は悪質リフォームの問題が表面化したように、詐欺商法は手を替え品を替えて絶えることがない。ある業者が摘発されても、同業他社へ移っていく者が少なくないといわれる。この就職難の時代に、詐欺商法だと分かっていながらも抜け出せない人が増えたのかもしれないとも思う。

 しかし理由はどうあれ、コツコツと働いた人を陥れるような卑劣な犯罪が、これ以上増えたり、簡単に許される社会であってほしくない。電話機リースなど訪問販売は詐欺(懲役10年以下)での立件がなかなか難しいらしく、特定商取引法では重くて懲役2年、罰金300万円。ほとんどが罰金刑だと聞くと、手ぬるいと言いたくもなる。この程度の刑では犯罪の抑止力にはならないのではないだろうか。政府にはこのたぐいの犯罪の厳罰化に取り組んでほしい。弱者を救うような法律の整備を急いでもらいたい。

 実は今月に入ってから経済産業省は、数年前から急増している個人事業者を狙った悪質な電話機リース商法の対応策として、ある通達を出した。男性のように個人事業者名で電話機のリース契約を結んでも、その電話が家庭用などに使われている場合はクーリングオフできる、という救済策を初めて示したのだ。被害者にとっては1歩前進だ。

 「焦らずにじっくりやります」。通達が出たことを受けて男性は、弁護士への相談を始めた。

December 16, 2005 12:05 PM