記者コラム「見た 聞いた 思った」

2005年12月12日

ガニマタの説得力:山内崇章

 何だか高校生に戻ったような気分だった。高校球児を前にしたプロ野球選手が、身ぶり手ぶり、真剣な顔つきで野球を語っている。自分もあのときにこの話を聞いていれば…。勝手な妄想も膨らんだ。気が付けば彼らの言う野球観、技術論に心を奪われ、高校生と同じようにメモを取っていた。いまさら野球がうまくなるわけでもないのだが…。

 先日、プロ野球現役選手による高校生を対象としたシンポジウムが仙台市で行われた。プロアマ交流の一環として、3年前から始まった取り組みだ。当時、野球担当から離れていたこともあり、プロがアマに技術的なアドバイスを送る姿がとても新鮮に映った。

 横浜種田は、ガニマタ打法に至るまでを話していた。「左肩が開く悪癖の矯正です。左ひざ頭を真っすぐ投手に向けると体を開かずに済む」。斎藤は「制球力は2本の足、指先で地面をガッチリつかむことで得られる」と声高に語った。石井は、利き目の左目でボールをしっかり見るためにオープンスタンスを導入。「実践すれば、今まで打てなかった球も打てるかも」。

 ほんの一例だが、どの話にも説得力があった。彼らが今にたどり着くための秘策が詰まっていた。貴重な話に接した球児たちがうらやましかった。

 一方で、これまでプロにぶら下がっていたはずの自分が、なぜこのたぐいの話をもっと記事にしてこなかったかと反省もした。プロアマの壁が閉ざされていた時代に、記事を通して球児に伝えられたはずだ。

 プロ野球選手は、ある種のエンターテイナーだ。華やかなプレーでファンを球場に呼び、テレビ、ラジオで全国にその様子が伝えられる。彼らの名は日本中で知られ、野球を通してタレント的要素も植え付けられる。新聞記者も選手たちの動きを連日伝える役割を担う。だが、エンターテイナーとして彼らに意識を置くあまり、表面上の動きにとらわれた記事に偏ることが多かった気がする。

 FA選手の動向、年俸の推移、オフの予定、私生活…。シーズン中なら、打った、投げた、勝った、負けたのハイライト。当然、こうした話題も読者ニーズの1つ。選手の日々を伝える大切な情報だ。ただ、表面的な事象だけをスケッチした記事が、今まで読者にどう受け止められてきたのか、少々不安になった。

 彼らがエンターテイナーであり得る根拠には、常人にはなし得ない技術がある。150キロの球を投げ、それを打ち返す。そのための技術、野球と向き合う姿勢とは。シンポジウムが行われた3時間だけ、高校生にタイムスリップした自分は、そんな記事が読みたいと素直に思った。

 強いチーム、優秀な成績を収めた選手には必ず理由があるはずだ。目に見えるスターの顔だけがプロ野球の伝統を築き上げてきたわけではない。

 プロアマの交流は着実に進んでいる。この取り組みがいずれ実を結ぶことは、会場を後にした球児らの笑顔が想像させる。現実に戻った自分も大いに啓発された。純粋な野球のすごみを伝えてくれ。選手にそうアドバイスされた気がした。

December 12, 2005 10:28 AM