2005年12月14日
貢献する貴重な人柄:上野耕太郎
ちょっとした出来事で人柄が垣間見えることがある。
私事で恐縮だが今年2月、娘が生まれた。初めての子だ。あまり丈夫ではないのかよく熱を出す。新米だけに慌ててしまう。
11月下旬、担当する日本ハムの選手会の納会が山梨で行われた。朝6時、早朝ゴルフコンペが始まった。新庄選手が「1本足打法」で笑わせれば、ダルビッシュ選手がルーキーらしく? 大たたきをする。シーズン中では見ることのできないシーンが続く。こういう取材は見ていても楽しい。
一転した。午後4時すぎに妻から電話が入った。1週間近く続いた娘の熱が引かず、病院でもお手上げの状況だという。慣れていないだけに動揺してしまった。出張予定はまだ先にも続いていた。焦った。
取材するときに思わず顔に出てしまったのだろう。勘がいい選手がいた。この日、選手会長に選ばれた金子誠内野手(30)だった。自分の方が年上ではあるが、3歳と1歳の子供を持つ「先輩」に思わずこぼしてしまった。金子は静かに言った。
「今、9カ月ですよね。この時期に高い熱を出して赤ちゃんから子供になるんですよ。心配しないでください。自分の子供も少し重い診断を下されたことがありましたけど、大丈夫でした。親が心配するほど子供は弱くないですよ」。
何か自分の中で引っ掛かっていたものがスーッと引いていくのを感じた。その一言で救われた感じがした。
アテネ五輪にも選ばれた金子はシーズン中、あまり笑顔を見せない選手の1人だ。常にピーンと張り詰めた空気を身にまとっている。実は今季、取材するタイミングが図りきれなかった選手だった。失礼ながらシーズン中とは違う一面を垣間見た気がした。
ゴルフ場で話した後、ゆっくりと周りを見渡してみた。選手はラウンド終了後、宿舎に引き揚げていく。金子は最後までゴルフ場に残っていた。マスコミから要請されていた全員分のスコアの集計用紙の手配、ゴルフ場関係者へのあいさつなど見えないところでやっていた。外見はクールに見える。ただし、そういった作業を後輩任せにせず、自分からやるとこに「人柄」がにじみ出ている。
プロ野球は社会の縮図だ。かつての「4番でエース」がプロの世界に入り、それぞれの役割を与えられ、こなしていく。観客を動員する力を持つスター選手、勝ち星でチームをけん引するエースがいる。一方でつなぎ役に徹し、自分を封じ込めてチームに貢献する選手も必要だ。V9時代の巨人、その後の西武など常勝球団ほど役割分担がはっきりしていた気がする。
役割を自分自身で把握し、徹している企業やプロジェクトチームは強い。しかも「4番」や「エース」ではなく、勘所の良い「つなぎ役」は貴重な存在だ。
金子は言う。「年下の選手に嫌われてもきついことも言っていこうかなって思う」。グラウンドのプレーだけでは見えない、縁の下の部分がそこにある。
December 14, 2005 11:35 AM
