2005年11月27日
素材を生かす調理人:荻島弘一
うまい物を食べるには、まず素材、そして調理だ。いくら素材が良くても、調理の仕方が悪いと味は台無しになるし、いくら調理がうまくても、素材のまずさはごまかしきれない。今月の上旬、シドニーFCに移籍したカズとW杯予選プレーオフの取材で、オーストラリアに滞在した。出張の大きな楽しみの1つは食事だ。何とかうまい物にありつこうとする。もちろん、今回もそうだった。
オーストラリアはシーフードが有名。カンガルーやワニの肉、もちろんオージービーフも。が、申し訳ないけれど、決しておいしくはなかった。もちろん、シドニーにもおいしい店はあるはずで、それが見つけられなかっただけかもしれない。ただ、たまたま食事した店はいまひとつだった。
現地に詳しい日本人から「素材はいいけれど」という言葉を聞いた。はっきり言って、味付けが大味なのだ。辛かったり、甘かったり…。とにかく、味が極端だ。せっかくの素材の味を生かせていないと感じた。
サッカーでも、同じだった。オーストラリアは優秀な選手の宝庫だ。数十人の選手が欧州のトップリーグでプレーしている。個々の力はある。強く、高く、技術もある。素材は素晴らしかった。しかし、過去のW杯出場は74年大会だけ。素材の良さを、チーム力に生かし切れていなかった。
ところが、今回のチームは違った。見事にウルグアイを破り、ドイツ行きの切符を手にした。ヒディンク監督という調理人が少し手を加えただけで、32年ぶりのW杯出場が決まった。試合後に「選手の素質が素晴らしい」と話した。素材の良さを勝因に挙げた。
決戦前々日、練習が終わると、自信喪失気味のFWアロイージに言った。「シュートをポストに当てる賭けをしよう。負けた方がワインをおごるんだ」。先に蹴ったヒディンクは「わざと」外した。アロイージは一発で成功した。その夜、監督はアロイージにワインを渡し、PK戦の最後のキッカーに指名した。「私の仕事は、選手に力を出し切らせることだ」。素材を生かした調理こそ「ヒディンク・マジック」だった。
決して素材に恵まれていたわけではない日本は、トルシエ監督という調理に手間をかけるシェフで02年のW杯を戦った。細かい味付けまでして出来上がった日本代表だった。今のジーコ監督は、素材の味を徹底して生かそうとする。時にはほとんど味付けなしで、ピッチに送り出す。選手を信じているからだ。実際に、前回のW杯よりも素材そのものは成長している。
14日、日本協会の川淵キャプテンがアーセナルのベンゲル監督の名を次期代表監督候補として挙げた。もちろん、まだ候補だから、どうなるかは分からない。ただ、おいしい料理を作るためには、いい調理人とともに、いい素材が必要だ。監督の選考と同時に選手個々のレベルの底上げも重要だろう。少しの味付けで劇的に強くなった抜群の素材を持つオーストラリアが、次回はW杯へのライバルになるのだから。
November 27, 2005 11:21 AM
