2005年11月26日
購買意欲がなくなる:桐越聡
子供が小学校に入学までには住宅を買いたい、と思うようになって数年になる。住んでいる賃貸住宅の住み心地が良いこともあって先延ばしにしていたが、「数年以内には何とかしたいね」。そんな話を家族としていた直後、首都圏のマンションなどの耐震強度が偽装された問題が発覚した。
船橋市などの現場で入居者、周辺住民の話を聞いた。不安や憤りの声をメモ帳に書きとめていると「どうしてこんな問題が起きるのか」と、やり場のない怒りが込み上げてくる。取材を進めると、姉歯秀次・1級建築士だけに責任を押し付けていいのか-。そんな思いが強くなってきた。
この問題を姉歯氏の同業者はどう見ているのか。ブログ「ビジネスからみた耐震構造計算」を開設する札幌市の1級建築士、田中構造設計・田中真一代表に聞いた。
--構造計算書を作成する際の報酬と、完成に必要な期間は
田中氏 1平方メートルあたり500~800円。姉歯氏が設計した3000平方メートル規模のマンションだと150万~200万円ぐらいの収入になる。電算プログラムを使った計算だけで3週間、全体では1カ月近くかかる。1~2週間でやったと聞くが、そんな期間ではできない。
--姉歯氏が話したような「プレッシャー」はあり得るのか
田中氏 あったのではないかと想像する。依頼者は「安く抑えられるように」と頼んでくる。私の場合、危険な建物はつくりたくないから「危ない」と分かると、自分から身を引いているが、そういう人との付き合いを続けるうちに感覚がまひする可能性はあると思う。逆にコストを落とすことを売りにする人も見受けられる。
--民間の確認審査機関の責任を問う声も上がっているが
田中氏 構造計算は特殊な世界で分かっている人は少ない。正直、ごまかそうと思えば、どんな審査機関の審査でもごまかせてしまうようなところがある。審査機関によっては素通り。それは審査が民間へ移行する前から変わらない。表に出ない不正はまだあると思う。しっかりとした知識と経験を積んだ人が審査する仕組みを作らないといけないのではないか。
--審査機関が不正を見抜けないほど構造計算は難しいのか
田中氏 建築主、販売会社…ほとんどの人が分かっていない。誰も気付かないから、手を抜いた人が勝ちというか、過剰設計だ、仕事が遅いと言われ、まじめにやる人が損する風潮がある。早くやる、コストを抑える構造設計者が評価されてしまう。残念だが、それが現実。現場の人間としては、今回の問題を姉歯氏の責任だけで終わらせてはいけないと思う。
今回の問題の背景には、業界の一部に安全より利益を優先する体質があるような気がしてならない。安心して快適に暮らせる住宅を買いたいと思って目を通していたマンションの折り込み広告。その美辞麗句に、以前ほど胸躍らなくなったのは、私だけじゃないと思う。
November 26, 2005 10:41 AM
