記者コラム「見た 聞いた 思った」

2005年11月12日

プロ野球はビジネス?:山内崇章

 昼下がりの強い日差しがスタジアムの芝を鮮やかに照らし出している。3年ぶりに取材で訪れた巨人の宮崎キャンプ。選手はひたすら白球を追い、首脳陣は新生巨人の立て直しに思いをめぐらす。ユニホームを着たものたちは純粋に技術、組織力の向上だけを目指している。雑音はない。聞こえるのは選手の野太い声とファンの声援だけ。ここに来ると実感する。やっぱり野球はいい。

 またか、という感が否めなかった。そのプロ野球が、ビジネス至上主義の波にもまれている。村上ファンドが阪神電鉄株を約40%取得し、仙台に球団を持つ楽天が、横浜を傘下に置くTBSの筆頭株主となった。いずれも4日のオーナー会議で徹底議論され、それらの行為には、疑いの目が向けられた。多くの野球ファンにとっても、唐突で煩わしい問題にしか映っていなかったのではないか。

 村上世彰氏は、阪神球団株の上場を提案したほか、TBSの株主にもなり横浜球団についてこう語った。「何でTBSというテレビ局が、ベイスターズを所有しなきゃいけないのか、僕には分からない。コア事業じゃない」。楽天の三木谷浩史社長は「(横浜の)売却先はある」との構想も関係者に示唆したという。

 昨年も球界はピンチに立たされた。「日本の市場は1リーグ制が妥当」。一部のオーナーが自分たちの意を正当化させた言い分にも、やはりビジネスという単眼的な見解があった。そのうねりを変え、ファンの声を代弁してくれたのがIT企業の若手経営者だった。彼らのバイタリティーあふれる行動は、12球団2リーグ制の維持、史上初の交流戦実現へとつながった。

 しかし、今回の三木谷社長の行動には、素直にうなずけない。野球を拝金主義の見地から語られてはたまらない。健全な球団経営のためには、確かにお金は必要だ。赤字経営を解消できていない球団は依然として多い。しかし、その論理の中で、プロ野球が持つ文化的意義を排除してしまうのはあまりに乱暴だ。

 会社の同僚に大阪出身の阪神党がいる。こんなことを話していた。「自分はファンやない。阪神は人生やねん」。負けた日ほど、愛情ある言葉があふれ出す。日本シリーズで屈辱の4連敗した後でも「負けても負けても応援する、阪神は言うことを聞かない自分の子供のような存在」だと。同僚の言葉からは「来年こそ」の意気込みが伝わる。プロ野球には無償の愛を注ぎ続けるファンがいる。彼らは、感動見たさに球場へ足を運び、選手たちの一挙手一投足に歓喜してきた。

 三木谷社長はTBSとの経営統合を目指すにあたり「無一文になってもやる」とも話した。あなたが一文なしになれば、せっかく根付いた仙台のファンはどうなるのか。村上氏は、球団を上場させたい理由に「経営の透明性が高まり、市場から資金調達することでより強いチームをつくれる」と力説する。自称「阪神ファン」を語るからには、単に株の売り抜けで終わらせることはないだろう。三木谷社長も1度は球界を救ってくれた人だ。野球ファンはじっと見守っている。

November 12, 2005 12:40 PM