2005年11月07日
一所懸命 元彌に感動:荻島弘一
最近、テレビ番組で日本語を扱ったものが多い。正しい漢字の使い方、敬語の使い方、普段文章を書いている者としては完ぺきに分かって当たり前だとも思うが、それでも「へえー」と驚くことが少なくない。もっとも、ほとんどの人が間違えるのは、すでにその言葉の意味が変わってきたということ。いずれは、今の間違いが正しい意味になるのではとも思うけれど。
記者になったばかりの20年ほど前は「一生懸命」と書くと「間違いだ」と指摘された。正しくは「一所懸命」。最近では「一生」の方がはるかに一般的で「一所」と書く方が珍しいかもしれない。もともとは、主君からの領地(一所)を命を懸けて守ること。それが転じて一生となった。もっとも、個人的には「ずっと懸命に生きる」という抽象的な一生懸命よりも「1つのことに真剣になる」一所懸命の方が好きなのだが。
3日のプロレス興行「ハッスルマニア」で、狂言師の和泉元彌がプロレスに挑戦した。本場米国のWWEで活躍する鈴木健想に必殺の「空中元彌チョップ」で勝った。まあ、勝ち負けなどどうでもいいけれど、とにかく内容が素晴らしかった。「元彌はプロだなあ」と思える試合だった。
プロレス担当の来田記者は「もっと特殊効果を使うのかと思っていたけれど、本当にプロレスでした。元彌は、ものすごく真剣でしたから」と教えてくれた。相手の舞台に立って「失礼のないように」考えたという。だからこそ、時間をつくって練習をするなど、取り組み方も真剣だった。
狂言師のプロレス挑戦には、批判の声もあったはずだ。はっきり言って「ばかばかしい」ことかもしれない。本人にとって、プラスどころかマイナスにもなりかねない。それでも、元彌はやった。「一所」に懸命になる姿は美しい。張り手を受けて苦痛にゆがむ表情には、感動すら覚えた。
ばかばかしいことでも、つまらないことでも、真剣に取り組めば感動を与えるものになる。元彌に対する批判も、ハッスルに対する批判も、すべてをのみ込んで「面白かった」と心から言えれば、それでいいとも思う。メーンで大暴れをしたHGとともに、大会は大成功に終わった。
もともと、ハッスルが目指すのは「8時だヨ!全員集合」だそうだ。かつて、土曜日の午後8時に子供たちをテレビの前に集めたお化け番組。PTAは「教育上よろしくない」と目くじらを立てたけれど、面白いものは面白かった。批判されることを承知で書くなら「面白ければいい」のだ。もちろん、全員集合もドリフターズをはじめ出演者は真剣に取り組んでいたはず。だからこそ面白かった。
一生懸命に生きていこうとは思っていない。でも、常に一所には懸命でいたいと思う。それがどんなに人につまらないことと思われても、かまわない。懸命になれること、なれるもの。それがある人が、幸せなのだ。試合後、テレビに映し出された元彌の晴れやかな表情を見て、そう思った。
November 7, 2005 12:15 PM
