2005年11月03日
「ゆとり」文化の違い:永井孝昌
米の味。水の味。スマートに渡せないチップ。待てど暮らせどこない電車。前後の車に少しくらいぶつけても気にしない縦列駐車。通じない「テークアウト」に「モーニングコール」。宗教上の禁忌。おおらかだったり頑固だったり、いいかげんだったりする国民性。歴史の重みと、大自然。
日本を1歩飛び出せば、慣れないことがたくさんある。新たな国を訪れるたびに、驚いたり困ったり、感動したりすることも1度や2度ではない。それでも、2、3日も現地で過ごせば大抵のことには慣れるもの。むしろ見知らぬ習慣や常識との出会い、新たな価値観の発見が、海外へ出掛ける最大の醍醐味(だいごみ)かもしれない。
ただ中には、どうしても慣れないものもある。
滞在中のフランクフルトのホテルでこの原稿を書いているただいまの時刻は、10月29日土曜日を3時間過ぎた、30日の午前2時………2時ぃ?
10月最後の日曜日。その日、ヨーロッパ全域(一部除く)で一斉にサマータイムからウインタータイムに切り替わる。ドイツなら午前2時が、グリニッジ標準時(GMT)の英国なら午前1時が年に1回この日だけ、2度やってくる。3月最後の日曜日まで5カ月間の、ヨーロッパの長い冬。現地で「冬到来」を経験するのは人生2度目だが、頭の中で1時間足したり引いたりしているうちに、原稿の締め切り時間まで分からなくなってくる。
そのサマータイム、日本でも導入の動きがある。日本では48年から4年間だけ導入していた時期があるが、国会では99年に再導入を求める動きが活発化し、北海道では今夏も札幌商工会議所が提唱する「北海道サマータイム制」の導入実験が行われた。推進派の主な理由は、日照時間の有効活用と温暖化対策。だが効果のほどは明確でなく、本当に導入すべきかどうかにはまだまだ議論を尽くす必要がある。
ただ、実際に時計の針を回しながら感じるのは「あぁ、今年の夏も終わりかぁ」という思い。日本人が「すっかり日が短くなったねぇ」という言葉で表す冬の訪れを、ヨーロッパの人々はきっと、家中の時計の針をキリキリと巻き合わせながら実感するのだと思う。10月最後の日曜日。ベッドから出たくない日々がやってくる冬を目前にして、1日だけ、1時間の朝寝坊が許される文化には、夏、余暇、時間、そして「ゆとり」に対する日本人との根本的な意識の違いがにじんでいる気がする。
サマータイムの恩恵を受けて私も1時間、得をさせてもらったものの、その時間を有効利用するヒマもなく10月31日に海外出張を終えて帰国することになった。1時間得をして、7時間、いや8時間損をして…と頭は混乱するばかりだが、帰国して、待っているのは人込み、渋滞、狭い部屋。常軌を逸した満員電車に星の見えない都会の夜空。もうすぐ故郷で過ごした日々と上京してからの年月が同じ長さになるというのに、海外どころか、まだまだ都会暮らしには慣れないことがたくさんある。そして日本がそんな国であるうちは、「サマータイム導入によるゆとりある暮らし」などまやかしでしかないのかもしれない。
November 3, 2005 12:58 PM
