2005年10月30日
謙虚が見えた上村騎手:高木一成
目が悪くなってだいぶたつ。毎日仕事でパソコンの画面を長時間見続けているだけではないだろうが、学生のころは1・0はあった視力が、ここ数年は両目とも0・2。それでも車の運転以外はメガネはしないし、コンタクトもしたことがない。「大丈夫なの?」とよく聞かれるが、馬の調教とかレースは双眼鏡で見るし、特に困ると感じることはない。たまに間違って知らない人にあいさつしちゃうぐらいか。1度、徹夜でマージャンして、そのまま午前中の健康診断を受けたら0・4に上がったことがあったが、あれは何だったのだろう? それ1回だけでまた0・2に戻ったので、いまだに謎だ。
1年ぐらい前に大学時代の先輩が、レーザー治療ですごい視力が良くなったと聞いた。「どうせならそれで治すか」とも考えたが、その費用を馬券でもうけて工面しようと考えたのが失敗。まず、貯(た)まらない。もっとも、人がコンタクトをつけるのを見ても怖いと思うぐらいで、本音はどっかに目の手術への恐怖があるからためらってるだけなんだけど。
30日の天皇賞にアドマイヤグルーヴで参戦する上村洋行騎手(32)は昨年、その大事な目を4回も手術した。いや、せざるを得なかった。実は2年前の12月、一緒に食事をする機会があったときに「最近右目がやばいんですよ。よく見えなくて。でも(競馬に)乗せてもらえなくなるとまずいんで、周りには言わないでくださいね」と聞いていた。本格的な検査の結果、「黄斑膜(おうはんまく)角膜炎」という原因不明の病気だと判明。右目の視界はすりガラスを通して見るように白く濁っていたという。ごまかしながらの騎乗は限界がある。「人に迷惑を掛けることになったらまずい」。翌1月には戦線を離れ手術に踏み切った。
だが、とても珍しい症例で、すぐには思うような成果は出なかった。「騎手に戻りたい」という強い意志で手術を繰り返したが、3回目の手術を終えても視力は回復しない。「騎手をやめたくないと思う一方で、別の仕事を考えざるを得なかった。学歴があればな、と本気で思った。でも結局ほかにできる仕事は浮かばなかった」と悩みに悩んだ。
結局、術式を変えた4回目の手術で何とか視力を取り戻すことができた。昨秋に戦列復帰。再び乗れることが何よりうれしかった。92年のデビュー年に新人賞受賞と華々しいスタートを切った上村騎手だが、手術前の数年の成績はひと息。「こんなはずじゃない、とくすぶっていた。前は余計なプライドが邪魔をして謙虚になれなかった」と振り返る。だが、今は違う。熱心に厩舎を回る姿などが、関係者の信頼を回復していった。今年は乗りクラも増え、勝ち星につながっている。「自分をリセットするいいきっかけになった」。今でも右目の視力は元の2・0には程遠い。それでも、手術の不安を乗り越え、病気を克服したことで違うものが見えてきたということか。同じ年でもある上村騎手が、この先どんな騎乗を見せるか、個人的に注目している。
October 30, 2005 12:29 PM
