記者コラム「見た 聞いた 思った」

2005年10月29日

選手の能力信じる:千葉修宏

 僕は野球の監督も、一般社会における会社などの組織の長も、基本的になすべきことは同じだと思っています。

 今季、日本のプロ野球でボビー・バレンタイン監督(55)のロッテが、31年ぶりの日本一となりました。大リーグではオジー・ギーエン監督(41)のホワイトソックスが、なんと88年ぶりとなるワールドシリーズ優勝を勝ち取りました。この2人をひとくくりにすると、両者から怒られるかもしれませんが(笑い)、2人の采配には共通する部分があります。そしてそれは実社会でも通用する選手(社員)操縦法ではないでしょうか。

 僕が思うに、彼らはあまり選手を「指導する」という意識がないのではないでしょうか。それよりも、選手の能力を信じ、彼らが力を発揮できる環境を整えることが最も重要だと考えているようです。

 ある日、ホワイトソックス井口選手が打席に向かう際、片言の日本語で「アホ、バカ!」という声が聞こえたそうです。振り向くとギーエン監督がニヤリ。もちろん冗談で、緊張を解きほぐそうとしたのでしょう。別の日には、擦れ違いざまに「キムタク!」と言われ、「何で知ってるの?」と笑ってしまったそうです。こんな監督だからこそ、すぐにチームに溶け込み、実力を発揮できたのではないでしょうか。

 またデータ重視のバレンタイン監督も、実は選手が意気に感じる「浪花節」的采配も目立ちます。左投手にあえて李選手をぶつけたり、シーズン中の黒木投手の復活ストーリーなんかは、監督の頭の中に最初から描かれていたのでしょう。打てない時も4番サブローを使い続けたり、プライドをくすぐり力を出させる方法を知っています。

 逆に、今季もまた最下位を突っ走った某メジャー球団の監督は、担当記者に聞くと、まさに「オールドスクール(古いタイプ)」の監督だそうです。(実績だけはあるので)自分の経験則だけで話し、自らの威厳を保つことを一番に考えるタイプ。いつも気難しい顔をしてメディアにも高圧的で、ほとんどの中心選手に、そっぽを向かれていました。僕が以前取材したある日本人の監督さんは、報道陣の前で延々と選手批判。そういう監督(上司)のために「やってやろう」という気にはなりませんよね。

 バレンタイン、ギーエン両監督のやり方がすべて正しいとは言いません。ただ、野球でも仕事でも実務を行うのは選手であり、会社の部下なわけですから、その力を100%組織のために発揮させることを優先するのは当たり前です。

 でも軍隊流の上下関係がはびこってきた日本の社会では、力を生かすよりも、下の人間の欠点を矯正しようとしがちです。しかも的確に矯正するならまだしも、意味のない罰を与えたりすることもあります。

 例えば、試合に負けた時、グラウンドを100周させても、また同じ失敗をします。選手の能力を生かすなら、試合に負けた時、仕事でミスした時、冷静に反省して失敗を分析させた方が、次の機会で有効です。バレンタイン、ギーエン両監督はミスに対してもそういう対応をします。2人の成功は、指導者の進むべき方向性を示したという意味で、本当に素晴らしいことだと思います。

October 29, 2005 10:46 AM