記者コラム「見た 聞いた 思った」

2005年10月27日

地震予知できません:桐越聡

 死者51人、重軽傷者4795人。13万世帯近くが被災した新潟県中越地震から1年が経過した。

 皆川貴子さん(当時39)と長女真優(まゆ)ちゃん(同3)が犠牲になり、長男優太ちゃん(3)が奇跡的に救出された長岡市妙見町の土砂崩れ現場。追悼式典に出席した優太ちゃんの祖父皆川敏雄さん(69)は「悲しみというのは薄くならないんですね、やっぱり」と小さく話した。返す言葉が浮かばなかった。心が痛んだ。

 皆川さんが力を込めて話した。「地震専門の学者や先生方に頑張ってもらって、地震予知ができればありがたいなと思います。天気予報みたいに地震の予知ができれば、もっと被害が少なくなって、いいんじゃないかと」。地震が予知されれば被害規模は確実に小さくなる。地震予知に期待したい。その気持ちは、痛いほど分かる。

 国の地震予知研究は40年前に始まっている。しかし、95年の阪神大震災以後、研究者の間では「あきらめるべき」という空気が広がったと聞く。「予知できるような観測体制ではない」「予知は神話」などと、国の取り組みを厳しく批判している専門家がいる。

 「地震予知は夢物語だね」。大学時代、地震学の講義を担当した先生はハッキリと話していた。しかし、「地震予知連絡会」など、地震予知という言葉は今も残っている。理想としては分かるが、現実とは懸け離れすぎている。

 以前、こんなことが報道された。2年前、宮城県で震度6の地震が続いた直後の中央防災会議で「今回の地震で予知はあったのか」と、小泉首相が尋ねた、と。小泉首相ですら、そうだった。地震予知という魔法のような言葉を信頼して「いざ、というとき予知情報が出るのでは」と、漠然と思っている人は少なくないと思う。

 1年前、被災地の大混乱を目の当たりにした。たくさんの人が「地盤がしっかりしているから大丈夫だと思っていた」と途方に暮れていた。「残っているのはふろの水だけ。赤ちゃんにミルクをあげられない」と、飲料水を買い求めるため、崩落しそうな山道を急ぐ人がいた。「車の中は暖かいし、余震も怖くない」と笑みを浮かべていた人が数日後、エコノミー症候群で亡くなった。市民に地震への備えはほとんどなかった。

 もちろん、地震予知につながっていく観測や研究は進めてもらいたい。しかし、現時点で地震予知は幻想にすぎない。それならば、被害を食い止め、実際の混乱を抑えるような分かりやすい政府の啓発活動が、必要なのではないだろうか。政府の地震調査委員会は「大地震の確率は○%」と随時、公表しているが、低い数字には安心してしまう危険性がある。分かりにくい。

 今夏「クールビズ」という言葉は地球温暖化対策への意識とともに広く浸透した。「地震予知はできません」。地震対策の啓発活動をそんなコピーから始めるのも悪くはないと思うのだが…。

 皆川さんら51人の遺族の涙を、決してひとごとにしてはならない。

October 27, 2005 12:08 PM