2005年10月15日
「逆境」こそ試される:上野耕太郎
第2の人生-。言葉では簡単に表現することができるが、直面すると難しい。4日、私が担当する日本ハムで8人の選手に戦力外通告がなされた。その2日後には岩本、芝草、山田というベテラン3選手が退団することになった。コーチ5人が解任され、スカウトは3人、すでに球団を離れることが決まった。プロの世界は厳しいと頭では理解しているつもりだった。その現場に直面すると胸が痛くなることもあった。
私は今年で35歳になる。自分と同じような年代の選手たちが戦力外となっていく。体力と技術の世界は、自分の技量だけではなく若い選手の台頭などいろいろな側面を持つ。「高額の年俸をもらっているじゃん」という声もあるかもしれない。ただ、子供のころからやってきた野球と決別するのは選手にとっても大きな決断が必要だろう。引退後も野球に携わる仕事に就けるのはほんの一握りだ。
戦力外通告を受けた選手たちは一様に「この日がいつか来ると思っていましたが、実際に来てみると…」と複雑な表情をみせた。投手コーチを打診されていた岩本も「野球人として現役希望の気持ちが強い。ファイターズで燃え尽き、現役を全うするのが夢だったが…」と現役続行を決意した。ただし、野球の世界だけではない。サラリーマン社会も会社の倒産、リストラといった現実がある。
退団していく選手を取材しながら自分に置き換えてみた。マンションのローンあと、34年もある。経理や簿記ができるわけでもなく、営業職もやったことのない自分にとって転職が容易ではないと想像できる。美容師をやっている1つ下の弟は「腕」がある。自分にはそういった「売り」がない。
と、暗くなりそうな時、自分の地元のある動物園のことを思い出した。私が中学、高校時代だから20年以上前の話だ。ラーメンが有名な我が町はデートコースといえる場所が皆無だった。そんな時、唯一のテーマパークであるこの動物園に足を運ぶことはなかった。友達同士でも「なんまら、がっせー(標準語訳=とても格好が悪い)」という評判だったからだ。96年には年間入場者が26万人とピーク時の半分に減少。地元の人からも興味を持たれず、ひっそりと営業していたその動物園は市議会でも不要論が飛び出し、閉館の危機を迎えた。
逆境と発想、そして信念が重なり合った。「動物のありのままを見てもらう」。その独創的アイデアが「行動展示」という見せ方につながった。98年、オランウータンが空中で散歩し、ペンギンが水上を跳ねた。そう、旭川市にある旭山動物園は息を吹き返した。昨年度は7、8月と本年度は7月から3カ月間、上野動物園を抜いて月間入場者数が日本一になるなど快進撃を続ける。小泉首相が地方のV字回復の例えに使うほどの人気だ。
言葉は悪いがまさに「火事場のばか力」だ。転機を迎えた選手だけではなく、自分にもいつか「逆境」は訪れるだろう。そのとき、自分の持っている力をどこまで発揮できるだろうか。正念場に強くありたいと思ったりする。
October 15, 2005 11:43 AM
