記者コラム「見た 聞いた 思った」

2005年10月10日

マージャンは潤滑油:高木一成

 新宿に、よく行く雀荘がある。そして土曜日に顔を出すと、必ず見掛ける4人組がいる。年のころは70~80代。早朝に店に集合し、終電の時間になると、また来週末の席の予約をして帰っていく。「勝った」「負けた」で各人の機嫌はさまざまだが、4人ともゲーム中の表情はいつも生き生きしている。本当にこの時間を楽しみにしているんだなーと感じる。

 前に1度、こっちの卓の仲間が興奮し、奇声を発したのを、静かにたしなめられたことがある。役満を上がった喜びの声ならともかく、チョンボ発覚の叫び声だっただけに余計情けないが…。謝った後「毎週来られてますね」と話しかけると「健康のためにね。ウォーキングもいいけど、僕らは指のウォーキングの方が合ってるから」と、1人が笑って牌を指でなぞった。

 僕が大学生のころ、よく行っていた雀荘のおばちゃんが「最近の子はマージャンをやらなくなった」といつもぼやいていた。だが、逆に最近は高齢者の介護予防、コミュニケーションの場として広まっているらしい。“お金を賭けない”“たばこを吸わない”“お酒を飲まない”健全なマージャンを提唱し、1988年に設立された「日本健康麻将協会」(ギャンブルの“マージャン”と違いを出す意味で表記は“麻将”)は、昨年実績で会員約10万5000人と盛況だ。同協会事務局は「団塊の世代が定年で会社を卒業する時代になり、その後の人生の中で仲間をつくりたいという人が多くなっている」という。調べてみると、「行政」が積極的にマージャンの場を住民に提供するケースも増えている。例えば、品川区は福祉高齢事業の一環として「生き生き健康マージャン広場」を行っており、定員締め切りになるほどの反響を得ている。

 「マージャン=ギャンブル」の悪いイメージを持っている人は多いと思う。でも、コミュニケーションの場としての可能性はバカにしたもんでもない。ある催しのアンケートで「同じ卓に座った人と話してみたら、今まで知らなかった隣の家の人で、その後、付き合いが始まった」なんて答えがあったらしい。今の世間の無関心さを表す怖いエピソードでもあるけど、こんなことが近所付き合いの活性化につながることもあるのだ。

 頭脳スポーツとして頭を活性化させる一面もある。冗談抜きで、徹マン明けで寝ようとして目を閉じると、暗闇の中に牌が浮かんでくることがある。おそらく、起きている時に、それだけ脳がフル回転していたということ。体が硬くなっても、発想は柔らかく。ボケ防止の意味でも、高齢者にはいい効果があるはずだ。

 いやいや、よく考えれば何も高齢者ばかりの問題じゃないかも。先日も自殺サイトが話題になったが、早い時期から考えることを拒否して、人生に生きがいを見いだせなくなったり、生身の他人とコミュニケーションをとるのが下手だったりって若者が増えている。そういう人にも、効果があるんじゃないだろうか(もちろんマージャンである必要はないけど)。生き生きした顔で興じる新宿の4人組を見ていると「こんな老後もありだな」と、ほのぼのとさせられる。

October 10, 2005 01:03 PM