記者コラム「見た 聞いた 思った」

2005年08月13日

「本当の姿」見たかった:小林千穂

 動物ドキュメンタリー映画は観客動員が見込めるジャンルに成長しつつある。今年は「皇帝ペンギン」がヒットしている。約8800時間カメラを回し、過酷な環境、南極でのペンギンの子育てを追っている。映像は素晴らしかった。見たことのない景色が広がり、壮絶な子育てに驚いた。でも、果たして「本当の姿」を伝えているのか、と疑問もわいた。

 ペンギンが、人になってしまっている。ドキュメンタリーなのに、お父さん、お母さん、子供ペンギンに俳優の声が当てられ、擬人化され感情を注入されている。子供が初めて雪の上に降りた時「冷たい!」。カモメに襲われた仲間を見て「かわいそうに、あの子はもうダメだ…」。そうなのだろうか。そして、ペンギンを襲う動物たちは、悪者として描かれている。「愛を語らう」というオスとメスのシーンの後には、卵を抱いたシーン。これじゃあ「ベッドに倒れ込む2人、そして数年後-」みたいじゃないか。ヒョウアザラシに襲われる場面も「多分襲われたであろう」というところで終わっている。残酷かもしれないし、子供には見せたくないと思うかもしれないけど「本当の姿」を見たかったなあ、と思う。

 米国公開版は、ペンギン視点でのセリフはなく、アカデミー俳優モーガン・フリーマンが淡々とナレーションをしている。日本で公開する時に、ナレーションか吹き替えかの検討はあったのだろうか。配給した映画会社は「子供が見やすいように、吹き替えでいくことをまず決めました。私たちはこれがいいと思ったんですが、ドキュメンタリーとしての作品を期待してきた人の中にはうるさいと感じる方もいるようです。作品の賛否の焦点が、吹き替えかナレーションか、になっているようです」と話す。確かにそこが焦点になる映画も珍しい。どのくらい物語性を求めるかによって賛否は分かれるが、ドキュメンタリーのジャンルである以上、付け足したストーリーは必要じゃない。ただ、公開から1カ月弱で興収は5億円に届きそうな勢いだ。単館系でこのヒットは異例のこと。動物ドキュメンタリーの勢いを感じる数字だ。

 イマイチだなあと言いつつ、頭の中はペンギンだらけ。そこへ、別の動物ドキュメンタリーの話が入ってきた。ブームが去ったと思われた直立レッサーパンダの風太が、映画になるという。立つ動物を集めたもので、最も出演時間が長い風太が「主演」なのだそうだ。父は生まれる前に死に、母は再婚し(?)おなかには、風太の義理の兄弟を宿している。家族と離ればなれになる風太を支えるのは恋人だけ…ってな状況が説明される。もう、こうなってくると擬人化どころじゃない。

 そして最高気温が30度を超えた日、先輩記者が「ファー(毛皮)を着た犬を見た」と言った。こんな時こそ犬を擬人化させて「オレ自体がファーなんだよ! あっちいんだよー!」と叫ばせたい。

August 13, 2005 11:40 AM