2005年08月04日
頑張れ「ユキオさん」:栗原弘明
元気だと思っていても、知らない間に体力というものは落ちてくる。昨秋、私はフルマラソンに初挑戦した。短距離とはいえ大学時代は陸上部に所属していたから、走れるだろうとたかをくくっていた。ほとんどぶっつけ本番で周囲から「無謀だ」と指摘されたが、その通り、かかった時間は5時間50分。25キロで少し休もうと思って歩いたのを最後に、2度と走れなかった。以後、歩き通して何とかゴールした。
今春は、転んだだけでひざを骨折してしまった。反射神経さえ、にぶったのか? 38歳という年齢に、いろいろ考えてしまうことも多い。気が付けば、プロ野球選手にも同期や年上が減ってきた。ターニングポイントになる年齢なのだろうか。
プレーを見る度、心の中で「頑張れ」とつぶやいてしまう選手がいる。日本ハム田中幸雄だ。12月に同じ38歳を迎える。今、いくつかの大記録を目前にしている。
◆2000本安打(あと44=過去33人達成)
◆1000打点(あと3=過去24人達成)
◆400二塁打(あと15=過去9人達成)
◆300本塁打(あと19=過去30人達成) ※記録は1日現在。
先日、練習後に「ユキオさん」と声を掛けると、スタスタと引き揚げていく。アレレ、気が付かないのかな、とあわてて追いかけると「なんちゃって」と通路の奥で笑みを浮かべていた。ちゃめっ気のある人柄は、いつまでたっても変わらない。変にかっこつけたり、無言を貫く選手にも理由があるのだろうが、大記録に迫りながらいつでも自然体の田中幸を見ると、ホッとしてしまう。
高校を卒業してプロ20年目の同期の巨人清原のような、華々しさはない。だが、コツコツと地道にヒットを積み重ねてきた。「大記録間近? そういう感覚はないね。でも他の選手が達成して大きく取り上げられているのを見ると、ああ、そういう記録なんだな、という気持ちはする」という。
ケガとの戦いを続けてきた。特に右ヒジの遊離軟骨には長年、悩まされてきた。数年前には除去手術もした。「手術って、麻酔が切れた時がつらいでしょう」と問いかけてみた。「周りの話では、選手だから、人がいる時はしっかりしゃべっていたみたい。だけど、1人の時はうなっていた。内視鏡手術なら傷口は小さくて済むけれど、自分の時は開いたからね」としみじみ語った。
その右ヒジを「今年は不思議と痛まないんだよね。こんな状態でやれるのは、本当に久しぶりだと思う」といたわるように、さすった。実直にプレーを続けて来た選手への、見えない贈り物なのだろうか。
チームでは珍しく、打席に入る時のテーマ曲がない。「自分は自分らしく、それが一番いい」。派手なことが好きではないのだ。それは徹底している。
2000本安打が達成されれば、球団生え抜き選手では初になる。その偉業が成し遂げられた瞬間の「ユキオさん」の笑顔を楽しみにしている。
August 4, 2005 11:26 AM
