記者コラム「見た 聞いた 思った」

2005年08月01日

騎手の減量死活問題:高木一成

 「軽くやばい」。

 軽快な音楽に乗って工藤静香や観月ありさがウエストの肉をつまむ某アルコール飲料のCM。あれを見て自分もやってみて「かなりやばい」って思った人って、結構多いのではないだろうか。

 こう書くからには当然、自分もそのひとり。サッカーなどで動き回っていた学生時代と違い、社会人になってからはだいぶ体が重くなった。あまりの運動不足を解消しようと昨年秋にフィットネスクラブの会員になったが、意志の弱さには自信がある。ついつい別の誘いに乗ってしまい、行ったのは数えるほど。家から5分の距離が、万里の長城より長く感じる。

 同年代が多いスポーツ紙の競馬記者の中ではまだましな方なのがせめてもの救いか。朝は早いし、生活は不規則だし…と、妥協、言い訳をしてみたくもなるが、ジョッキーの細いウエストが目に入るたび、その甘さを思い知らされる。何かコツでもあればと、取材の合間に数人の関係者に聞いてみた。最初は気軽な気持ちだったが、結果的に思ったのは、一般にいう「ダイエット」と、騎手の「減量」は覚悟が違うということだ。

 どんな競技の選手でも減量により「メリット」が生まれることはあるだろう。だが、騎手の場合は○キロ(その週の乗り馬により異なるが、だいたい50キロ台前半)以下に落とすことが、競馬に騎乗する「最低条件」。達成できなければ仕事がなくなるのだ。階級ごとのリミットクリアが絶対条件のボクサーも減量は過酷だと聞くが、試合は数カ月に1度。1週間ごとに期限が迫る中央競馬の騎手の方がすぐに苦しみがやってくる。

 食事制限、サウナなど基本的な減量方法は同じでも、落ちるところまで落とした後の減量はきつい。騎手って小柄でしょ? って思うかもしれないが、今の若い騎手は結構背が高い人も増えている。例えば武幸四郎騎手なんかは自分より背が高い174センチ。それで50キロ台前半の騎乗も受けるんだから大変だ。

 騎手時代にアイネスフウジンとのコンビで90年のダービーを逃げ切った中野栄治調教師も、毎週7キロの減量苦に悩んだ。「骨太なんで、なかなか減らないし、翌週はすぐに戻っちゃう。今は57キロなんだけど、本当はこれぐらいでいい体。今でもサウナは行きたくない」と苦笑いしていた。無理な減量で内臓を壊す人もいるし、減量苦が原因で現役を退く人もいる。騎手にとって体重管理は死活問題といえる。

 もちろん、それほど減量に苦労しないで済む騎手も多いのだが、何げなく見ているスマートさは「プロ意識」の表れなのだ。今でも騎手時代と同じ細身の体つきを保っている郷原洋行調教師は、よく女性からダイエットのコツを聞かれるが、決まってこう答える。「毎日決まった時間に3食のリズムをつくること。それだけでやせるはず。一気に落とそうとするから反動が出る。遊ぶだけ遊んで、急に減らそうと泡食ったってダメ」。いやはや、耳が痛い話だ。騎手の危機感を10分の1でも持っていればダイエットなんて簡単なんだろうけど、と思わされた。

August 1, 2005 01:33 PM