2005年07月09日
夢を追い続ける16歳:桐越聡
タイ・バンコクで、ひたむきに夢に向かっている日本人少年に出会った。プロボクサーの木村隼人君。今春、神奈川県川崎市内の中学を卒業したばかりの16歳だ。日本では17歳の誕生日を迎えるまではプロデビューできないが、タイの年齢制限は厳しくない。6月、現地のリングに登場してプロデビューを果たした。
木村君が練習していたジムはチャイナタウンの路地裏にある。薄汚れた建物の間をすり抜けると、半分雨ざらしになっているようなリングがあった。約1カ月間、30人ほどのタイ人と寝食を共にしたという。
夕方になるとネズミが足元をはい回る。日が暮れると9人部屋の寝室の壁にはゴキブリやトカゲがへばりつく。「タイ語は分からないし、ご飯は口に合わない。夜も暑くて眠れない。最初の3日間ぐらいは日本に帰りたくてしょうがなかったですね」と苦笑いした。
だが、言葉とは裏腹に表情は明るい。「早く世界を取って親孝行したい。お父さんにはボクシングジム、お母さんには一軒家をプレゼントしたい」。洗濯機はないから、練習着は足で踏んでから手洗いする。そんな厳しい環境に自ら望んで身を置いていた。
日本では今、仕事や学業に対して前向きに取り組めない若者が増えているという。学校卒業後に仕事、進学などをする意思を持たないまま過ごしている15~34歳の未婚者はニートと呼ばれる。競争社会とは距離を置いていたい。成果主義や能力主義にはなじめない。何となく働きたくない。働きたいけど、いい仕事がない。居場所を失った気がする…。そんなニートの数は、厚生労働省の労働経済白書によると約52万人に達した。深刻な社会問題になりつつある。
正社員が減ってパートやアルバイト雇用が増えているから、ニートは必然的に生み出される。景気の急激な上向きはない。しばらくはこの傾向が続いて、ニートの数は右肩上がりになっていくだろう。
「特効薬」はまだ開発されていない。ニートと呼ばれる人の悩みが晴れない日本の将来を思ったとき、重苦しい気分になってしまうのは、僕だけではないはずだ。
しかし、木村君のように真っすぐに、ひたむきに目標に挑戦しようとしている少年は、間違いなく、たくさんいる。そう考え直すと、少しだけホッとできる自分がいる。
遊びたい盛りのはずの16歳。「高校に行ったほうが良かったなと思うことはない?」と聞くと「夢はずっと追い続けた方がいいと思いますから」と即答した。木村君に迷いはない。
デビュー戦は同い年のタイ人ボクサーに判定勝ちを収めた。初めて手にしたファイトマネーは3000バーツ(約8340円)。滞在したジムへの支払いを差し引くと残ったのは1000バーツ(約2780円)だったという。一時帰国した木村君は、横浜さくらジム平野敏夫会長(57)に「僕はまだ卵から殻を破って出てきただけですから」と謙虚に話したという。プロ第2戦は9月に計画されている。来月には再び、単身でバンコクに渡る。
July 9, 2005 11:57 AM
