2005年07月01日
「一期一会」を大切に:鹿野芳博
「カメラマンにとって何が一番重要ですか?」。
写真部の先輩が数年前、他部署の上司に聞かれた。その先輩はしばらく悩んだ末、こう答えたという。
「運じゃないでしょうか」。
当時、私はその話を聞いて「運が重要? 運に頼っていたら、いい写真は撮れないですよ」と反論した。今より若かったこともあり「やる気」や「気合」といった自分からの直接的な要因の方が重要と考えていた。先輩の気持ちや考えを理解する余裕はなかった。
2年前、ヤンキースの松井秀喜外野手とニューヨークで「運」について話したことがある。松井はこう言った。
「僕は野球で運に頼ったことはないけど、運というものはあると思うし、自分は運が悪いとも思わない」。
正直、驚いた。松井の口から「運」という言葉が出るとは思わなかった。松井は持ち前の才能と努力により活躍しているわけで「運」というもの自体、否定していると思った。
松井が野球に出会ったこと。巨人に入団し、ニューヨークに渡ったこと。そしてヤンキースで試合に出続けていること。これらすべてが松井の人生だが、それは、運もあるというなら悪い運ではなかったといえる。
「一期一会」。
私のとても好きな言葉だ。「生涯にただ1度まみえること。一生に1度限りであること」。
カメラマンの「運」も「一期一会」ではないかと思う。運とはある意味「チャンス」で、希少なその被写体(決定的瞬間)に出会わなければ、当然、写真にすることはできない。
昨年夏、アテネ五輪取材の出発前夜、写真部のデスク(次長)2人と東京・築地のすし店に行った。
デスクA「鹿野、アテネではテロに気を付けてな」。
デスクB「そんないいかげんなことを言うのはやめてくれ。おれが鹿野を派遣すると決めた。安易に気を付けろなどと言わないで欲しい。テロがあったら取材しなければならないし、死と隣り合わせになる危険性だってある。それらすべてを考え、それでも行ってもらうことにした」。
アテネ五輪はテロに狙われるという報道が多々あった。デスクもその危険性から、部員の派遣を悩み、それでも当然、アテネに行かせることを決断した。
私も実際、テロに遭遇したら、自分がどうするか分からない。ただ、少なくとも言えるのが、持っていたカメラを、何か被写体となるものに向けるということだ。シャッターを押し、その後、逃げるかもしれない。それでも、写真という何かを残す自信はある。
テロに遭遇するのも1つの「運」ではないだろうか。いい事ばかりが運ではないのだ。これから先、どんな被写体に出会うか分からないが、その「一期一会」を大切にしていきたい。そして、その被写体に平常心で向き合えるよう努めていきたいと思う。
カメラマンは一瞬に生きなければならない。
※1年間担当したこのコラムも今回が最終回です。
July 1, 2005 10:57 AM
