2005年07月30日
常識覆す北島の偉業:荻島弘一
北島康介という男は、本当にすごいと思う。カナダ・モントリオールで行われている水泳世界選手権、25日の100メートル平泳ぎ決勝で銀メダル。27日の50メートル決勝でも、銅メダルを獲得した。いずれも自己記録更新、つまり日本新で泳いだ。優勝こそ逃したが、確実に進化を続けている。これが自由形だったら、それほど驚かない。平泳ぎだからこそ「偉業」と言える。
競泳競技には4つの泳法がある。自由形、背泳ぎ、平泳ぎ、バタフライ。クロールが主の自由形以外は特殊種目と呼ばれるが、中でも平泳ぎは最も難しいと言われる。手と足のかきは、推進力を生み出すとともに抵抗にもなる。1ストロークの中で、スピードがほとんど0になる瞬間があるため、4泳法の中で最も遅い。男子の世界記録は、日本の女子自由形の小学生記録にも負ける。
体力よりも技術の比重が大きいからこそ、体格にハンディを負う日本人の「お家芸」になった。しかし、泳ぎの難しさが多くの日本選手(外国人選手もだが)を苦しめてきた。長くトップレベルを維持することができない。五輪の歴史を見ても、連覇は男女を通じて28年アムステルダム大会と32年ロサンゼルス大会200メートルの鶴田義行(故人)だけ。王者が勝てないのが、この種目の特徴でもある。
乱暴な言い方だが、自由形などは練習を積めば積むほど速くなる。筋力がつけば、それがスピードにつながる。しかし、平泳ぎは違う。手と足のバランスが重要で、少しでも狂うとタイムは落ちる。筋力がアップすれば、逆に泳ぎのバランスが崩れる。精神的な影響で崩すこともある。選手たちは「平泳ぎは繊細な種目」と口をそろえる。
92年バルセロナ五輪200メートルで金メダルを獲得した14歳の岩崎恭子は、その記録を2度と破れなかった。72年ミュンヘン五輪100メートル金メダルの田口信教も、その後4年間は自己ベストを更新できなかった。最高の泳ぎを毎年続けることが難しいのが平泳ぎだ。
決勝レース終盤、北島に向けて「行け! 行け!」と叫ぶテレビ解説の高橋繁浩さんも、平泳ぎの元日本記録保持者。「難しい種目なんですよ」としみじみ話したことがある。高校2年生だった78年に、200メートルで同年の世界最高をマーク。「天才少年」「金メダル候補」と騒がれたが、その後水没での泳法違反(当時は常に頭が水面から出ていなければならなかった)をとられて低迷。自己記録更新は、1度した引退を撤回して臨んだ88年ソウル五輪、実に10年ぶりだった。
02年のアジア大会で世界記録を出した後、当時の担当記者に「世界選手権は難しいな」と言った。世界選手権2冠の後は「五輪は勝てないぞ」と話した。そして今大会前には「もう記録は出せないよ」。しかし、すべて予想は裏切られた。古い水泳担当が持っていた平泳ぎの「常識」は覆された。泳ぎを変えながらも進化を続ける北島と、それを支える平井コーチ。もしかしたら、08年北京五輪での史上初の五輪連続2冠も現実になるかもしれない。
July 30, 2005 12:04 PM
