記者コラム「見た 聞いた 思った」

2005年07月29日

言葉の暴力を許すな:桐越聡

 「『文明がもたらしたもっとも悪しき有害なものはババァ』なんだそうだ。『女性が生殖能力を失っても生きてるってのは無駄で罪です』って。男は80、90歳でも生殖能力があるけれど、女は閉経してしまったら子供を生む能力はない。そんな人間が、きんさん、ぎんさんの年まで生きてるってのは、地球にとって非常に悪しき弊害だって…」。

 「週刊女性」01年11月6日号に「石原慎太郎都知事吠(ほ)える!」との表題で掲載された石原慎太郎東京都知事(72)の発言の抜粋だ。

 都内に住む女性131人は02年、発言撤回と謝罪広告の掲載、損害賠償を求めて提訴した。1審の東京地裁は今年2月、「不適切な表現だが、女性全般について個人的な意見を述べたもので、原告個人の名誉を傷つけたとはいえない」として原告の請求を棄却した。

 その控訴審が25日、東京高裁で始まった。1審の原告131人中113人が名を連ねた。

 原告の1人で、55歳になる「きよさん」は都内の弁当店で働いている。離婚後、調理師免許を取得して14年前、四国地方から故郷の東京へ戻った。売るのは1日60個に満たないが、1人暮らしのお年寄り、共働きの家庭、入院中の患者さん…。待ってくれている人の顔を思い浮かべながら、丁寧に手づくりしている。「地域の人とつながりながら、満足のいく仕事ができています」。

 きよさんの心は石原都知事の発言によって、深く傷つけられた。「発言が自分に向けられていると思いました」。このちょうど1年前、きよさんは都内の病院で子宮の摘出手術を受けた。ホルモンのバランスが崩れて体調が変化した。同じ病院で摘出手術を受けた4人と再会し、術後の経過を報告したり、悩みを打ち明けあっていた。「前向きに生きていこうね」。そんな話をしていた矢先だった。

 「『生殖能力を失っても生きてるってのは、無駄で罪です』って、何の権利があって言っているの? 同じ病院には子供が欲しいのに子宮を摘出しなければならなかった、若い女性がいました。私の娘は摂食障害に苦しんで長い間生理がありませんが、生殖能力は問題じゃない。生きているだけでいいと思っています。石原都知事には『どれだけ多くの女性を傷つけたか分かっているの?』と言いたい」。

 人種、国籍、地位、もちろん性別は関係なく、人はそれぞれの場所で、限りある人生を精いっぱい生きている。家族を失った人も、病気やけがに苦しむ人も、経済的に苦しい生活を余儀なくされている人も…。笑い、喜び、怒ったり、悲しんだりしながら、自分の仕事や役割をこなしている。

 そんな市民を、広く傷つけるような社会的強者の発言は許されるのだろうか? 体に傷となって残る暴力とは違って、言葉の暴力は法律の網にかかりにくいともいわれる。だからといって野放しにされたままでいいのだろうか?

 「石原発言に怒る会」の共同代表、野崎光枝さん(73)は話している。「権力者の言葉の暴力が許されるようでは、日本の未来はひどいことになります」。

July 29, 2005 10:39 AM