2005年07月27日
郷愁呼びさます味:上野耕太郎
私が担当する日本ハムの本拠地、札幌ドームは札幌市の豊平区羊ケ丘という場所にある。農業試験場だったこの場所、その名の通りかつて羊が放牧されていたようだ。
03年から北海道グルメの1つ、ジンギスカンのブームが続いている。ブームの火付け役となったのはその年の4月に放送された情報番組だ。「食べても太らない肉」と放送し、一気にファンを拡大させた。「癖がある」といわれた羊肉も一般化し、首都圏でも専門店がオープンして人気だという。
戦前、羊は毛をとるため軍需目的で飼育され、戦後の食糧難でジンギスカンが普及していったという背景があるようだ。62年に羊毛の輸入自由化、化学繊維の登場により飼育数が激減。冬の時代を乗り越え今や脚光を浴びている。北海道には食べ方が2種類ある。札幌周辺ではたれにつけて、北空知地方ではたれにつけ込んだものを食べる。東京では札幌周辺のたれをつけて食べるものが広まっているそうだ。
ちなみにジンギスカン料理の名の由来と思われる、チンギスハン(漢字表記は成吉思汗)が帝国を作り上げたモンゴルでは、羊肉をゆでた物を食べる。モンゴルからやってきた食べ物ではなく、オリジナル(中国料理が発祥)という説もあるそうだが。モンゴル出身の力士が北海道にやってきて「食べたことがない。うまい」と言っていたそうなので、どうやら独自の食べ物らしい。
宣伝みたいになったが、書きたいことはそうではない。北海道の人にとってジンギスカンって何か郷愁の漂う食べ物なんですよね。こどもの日の思い出というか…。
わが家だけではないと思うのだけれど、とにかくジンギスカンだった。運動会が終わったその日の夕食、日曜日の食卓、花見、海水浴、キャンプ…。ジンギスカン専用の鍋がどこの家庭にもあった。一家だんらんの象徴だった。今はいない祖父と祖母、そして両親と弟と食卓を囲んだ。日曜日の夕暮れ時、食べ終わってアニメの「サザエさん」が始まると、「明日から学校だなぁ」って思ったものだ。
僕を含めた北海道人はジンギスカンに少なからず郷愁を覚えてしまう。多分、その地方で象徴のような食べ物があるのだろう。それって幸せなことだと思う。
人はいろいろな風景が写真のように折り重なって、記憶の中に刻まれていく。当時の味や音楽などがそのきっかけとして、その写真を頭の中に浮かび上がらせる。毎日、気ぜわしく働いていると、今の自分の「風景」ってあと数十年たつと、何だろうとって思う。そして今の子供たちにとって、どんなものが記憶されていくのだろか。
ところが今、ジンギスカンって家で食べなくなった。外で食べるものになり、1年に数回、口にするかどかという感じだ。それだけ、食卓に人が集まることがなくなったということか。よく「食文化」という言葉を耳にするが、生活なんだよな。原稿を書いていて、記憶の底にあった部分が鮮明によみがえってきた。無性に寂しくなった。
July 27, 2005 11:58 AM
