2005年06月26日
妖精よ故郷に力貸して:永井孝昌
昔々、ドイツのケルン、という場所には多くの妖精が住んでいました。市民が寝静まると街へ出て、畑を耕し料理を作り、道を掃除し家を建て…とせっせと働く妖精たちのおかげで、ケルン市民は誰も働く必要がありませんでした▽ある日、意地悪なばあさんが「妖精たちの姿を見てやろう」と思い立ち、家の前にグリーンピースをまきました。そうすれば夜、妖精たちが足を滑らせコロリと転び、その物音で気付くことができるだろう、と考えたのです▽夜。妖精たちがやってきました。そして家の前で…次々と妖精たちが転んでいきます。その音で目覚めた意地悪なばあさんが見たのは、ケガをして「もうこんな街イヤだ」と逃げ帰る妖精たちの姿。以来、妖精たちは2度とケルンの街に現れることはありませんでした。
ケルン、といえば、街の中心部にそびえ立つ大聖堂。1248年に着工し1880年に完成した高さ157メートルの巨大な聖堂ですが、今も毎日、補修工事が続いています▽大聖堂の建築責任者ゲルハルトは、名誉欲の強い男でした。彼が工事を始めると、毎日「こんな大聖堂なんて完成するわけがない」と嫌みを言いにくる男がいました▽この男、実は悪魔。街に教会を立てられてはたまらない、と邪魔をしにきたのです▽ゲルハルトは、悪魔とかけをしました。「もしお前が大聖堂が完成するより早く近くの街からケルンまで給水管を引くことができれば魂をやる」▽ゲルハルトは、かけに敗れてしまいます。「さあ、魂をよこせ」。悪魔に迫られた彼は、最後に言いました。「もし私が大聖堂を完成できなければ、誰も完成することはできないだろう」▽今も工事が続く大聖堂では「ゲルハルトののろいの言葉」と言い伝えられています。
ケルンで有名なのはカーニバル。毎年11月11日に始まり、2月中に行われる木曜日から次の週の「灰の水曜」までの1週間がハイライト。来年は2月23日からで「バラの月曜」のパレードでは何万もの人が仮装して通りを練り歩きます▽モットーは「The Crazier,the better」。デュッセルドルフのカーニバルでは女性が男性のネクタイを切るのが有名ですが、ケルンではひたすら騒ぎ、笑い、パレードでは大量のお菓子がまかれます▽いつしかケルンでは、こう言われるようになりました。「ケルンには5つの季節がある。春夏秋冬、カーニバル」。
日本がブラジルと大熱戦を演じる前日の21日、ケルン市の招きでライン川を船で遊覧するパーティーに参加してきました。来年のW杯へ向けた取材でしたが、夜のライン川に揺れながら、地元のケルシュビールを傾け、市の職員の方々からうかがったその土地に根付く民話や言い伝えの数々に感じたのは、郷土への愛と誇り。その後、私の故郷でまた大きな地震があった、と聞きました。遠くケルンで触れた郷土愛をかみしめながら、不安の中、故郷を思った夜。日本をたって3週間、柄にもなく「グリーンピースはまかないから、妖精よ、故郷に力を貸してくれないか」と思ってしまったのは、ちょっとだけ日本に帰りたくなってきた証拠なのかもしれません。
June 26, 2005 11:10 AM
