記者コラム「見た 聞いた 思った」

2005年06月14日

政治家も見た目大事:中山知子

 「スポーツ新聞も最近、政治のことを詳しく伝えるようになったね」。国会で取材をしていると、そう話しかけられる。自民党が分裂したり、非自民・非共産の連立内閣ができたり、大きな流れが始まった90年代初めから、スポーツ新聞の政治記事は少しずつ増えてきた。でも、1日2回、番記者との取材に応じ、メディアに登場する度合いの高い小泉純一郎首相が登場してから、確かにぐんと増えた。

 小泉首相の登場後、新聞や雑誌、テレビが総じて、政治家のビジュアルな面に注目するようになったし、政治家も読者や、視聴者の目を気にするようになってきたと思う。カッコ悪いよりカッコ良く、話題がないよりあったほうが気分もいいだろう。「政治家も見られてなんぼ」。国のリーダーがつくり出したこの流れは、そうそう簡単に逆流するとは思えない。

 先日、早大で行われた安倍晋三氏(50)の講演を取材する機会があった。聴衆は10~20代の学生。今や、選挙結果の鍵を握るといわれる無党派層の中心で、この年代に支持されるかされないかは重大だ。安倍氏は、国会では見せたことがないラルフ・ローレンのシャツ姿。「安倍さんは総理になれるか」という質問に「○」のプラカードが多く「ホッとした」と思わず本音をこぼしていた。国会での安倍氏とはひと味違う柔らかさ。「見られてなんぼ」を意識しているからだろうし、学生からも「それが狙いなんでしょうしぃ」と、ツッコまれていた。

 安倍氏は、北朝鮮や中国に対して言いたいことを言うタカ派だが、政治家としての「人に見られる自分」を意識しているとも思う。「剛」と「柔」を使い分けている。

 まだ幹事長だった昨年の参院選前にインタビューした時は、年金未納問題で、自民党だけが党として未納議員を公表していなかった。安倍氏は「それは個人の問題」と言い張り、有権者に誤解されないか尋ねても「私は間違っていない」と強硬だった。「獲得議席が改選議席を下回れば、当然責任を取って辞める」と、表情も硬かった。

 その後写真撮影をしていると、幹事長室に招き入れてくれた。カメラマンが、安倍氏に「『ハッスル』をご存知ですか? ポーズを取ってもらえませんか」と聞いた。プロレスラー小川直也が手と一緒に腰を振る、例のポーズだ。

 スポーツ新聞は野球面から読むという安倍氏も、プロレス通ではなく、知らなかった。まさか応じてもらえるとは思わなかったが、カメラマンのポーズをまねて「ハッスル、ハッスル」。場は一気になごみ、写真は翌日の紙面を飾った。

 後日、選挙の遊説でも小川と一緒にハッスルポーズをして回った。北朝鮮強硬派とのあまりの「落差」か、マスコミも飛びついた。時代のはやりに乗るタイミングを図ったのだろう。

 自民党のベテラン議員からは「これからのリーダーは、大衆に迎合するばかりではだめだ」という厳しい声も聞こえてくる。でも、うまくバランスを取れるのが一番いいのじゃないかと思う。見た目なんて関係ないほど、実力のある政治家が出てきたら、また話は別だが。

June 14, 2005 11:31 AM